一歩踏み入れた瞬間から、新たな歴史を刻む優雅さを体感

入ってすぐ、その重厚感あふれる佇まいに心がやけに落ち着いていきます。朱赤の絨毯に調度品や窓を彩るステンドグラス、そしてオリジナルのアロマな香り。なんて素敵な空間!
格式のあるホテルではありますが、迎えてくれたスタッフの気さくなお出迎えに、帰ってきたと感じさせる優しさが滲み出ていました。

陰影のある回廊、ディテールの意匠に恋する

宿泊棟は「アルプス館」「愛宕(あたご)館」「碓氷(うすい)館」の3つに分かれ、館内の通路で繋がっていますが、どれもインテリアや趣が全く異なっているのです。そんな趣向で巡るとまた、楽しみも増すもの。
特別に見せていただいた「アルプス館」の客室へと向かう回廊から美しい陰影に満ちていて、自然と歩みも心もゆったりとしていきます。

「アルプス館」は、昭和11年の建築時から多くの賓客に愛されてきました。まさに、万平ホテルを象徴するようなクラシカルさ。客室には和洋折衷のインテリアを受け継いだ空間が広がっていました。

丸いペンダント照明、ガラス障子に伝統工芸の軽井沢彫が施された家具、憧れの猫足のバスタブ。少しの間でしたが、普段、体験できない空間に身を置くひとときに幸せを感じてしまいます。

エレベーターホールに変わった空間も

今回の改修でアルプス館に新設されたエレベーター。その窓際には大正時代に使われていたという素敵な椅子と、軽井沢彫のテーブルが。実はこれ、元々客室があった場所を生かしていて、窓際まで行くと謎のスペースまで残っています。そんな粋な造りを発見できるのもリニューアルの面白さかもしれませんね。
天然温泉の湯を設えた「愛宕館」

今回宿泊したのが、新たに内風呂に天然温泉の湯を設えた「愛宕(あたご)館」。先ほどのアルプス館とはまた違い、モダンさが融合しています。
西洋家具と組子格子といった伝統意匠がうまく散りばめられ、窓からは軽井沢の四季折々の景色が広がる。新しいのに、落ち着きがある。窓際の椅子に座ってしばし、くつろぐ瞬間がなんとも心地いいのです。
思い出に残る場所には、忘れられない瞬間が訪れる

ぼんやりと素敵な空間に身を置いていると、ふと、忘れられない旅先のホテルを思い出しました。それはシチリアで泊まった修道院を改修したホテル。広々とした室内にはアンティークの家具が置かれ、窓の外からは美しすぎるまでの海辺のサンセット。静寂の中に波音が響いていて、思いがけない同行者の赤裸々な話を聞いた。そんな思い出。

歴史ある場所の前では特に着飾る必要もなく、自分を振り返る瞬間があるのでしょう。
窓際で、ベッドの上で、湯に浸かりながら静寂を楽しみ、さまざまな思いを巡らせ、好きな音楽をBGMに身を委ねたり。少しずつ降り積もる大切な時間が愛おしいんですよね。