お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。
『酒器も肴のうち』第33献のお相手は前回に続き、秋田県立美術館内「ミュージアムカフェ&ショップ光風」の店長・菅原晶子さん。すでにご紹介した2種の酒器が筆者のストライクゾーンだったというのは先週のお話。実は菅原さんが一番最初に見せてくれたのは、一瞬、焼酎や泡盛のロックが似合いそうな陶製グラスだったのです。
「一番よく使うのはコレ。たっぷり入るでしょ。ほかの二つは女性には持ちやすいサイズかもしれませんが、これは大ぶりでちょこちょこ注がなくてもいい。たくさん飲むときはこれです(笑)。釉薬の表情もとてもきれい」(菅原さん・以下同)
小さなお猪口でチビチビ派、大きなぐい飲みでグビッと派。お酒好きの酒器も千差万別だが、今まで取材した人は後者が多いような気も…。ちなみに筆者は前者派、ということにしておきます。ところで、菅原さん、普段はどんなお酒で、どんなアテを?
「秋田には有名なお酒がたくさんあります。地酒なのに地元でも手に入らない人気のお酒もあるみたいですが、とくに銘柄にはこだわらないです。冬は燗酒もいただきますよ。主人が下戸なので晩酌相手はいませんけど。
好きなアテは母の自家製塩辛かな。母がイカわたを絞って、そばで私が塩加減の味見をして、そろそろいいかなと言いながら手伝ったことを思い出します。仕上げにゆずの皮をちらして完成。あとはあん肝、ハタハタ寿司なんかも好きですね。ナマコや帆立のヒモも美味しいですよね」
次々出てくるアテがどれもこれもそそるではないか。話を聞いて、すでに妄想晩酌。目の前の大ぶりな酒器のことを聞きそびれそうになった。
「これは秋田出身の陶芸家・田村一(はじめ)さんのものです。ミュージアムショップでも田村さんの作品を扱っています。とても人気があって、買い求める方は男性のお客さまが多いんです。地元の酒蔵さんとのコラボ作品も展開していて、活動の幅も興味深い方ですね」
ミュージアムショップには田村さんの作品はじめ、曲げわっぱや川連(かわつら)漆器など、秋田の伝統工芸品が並ぶ。なかでも目を引いたのは川連漆器の坪型のぐい飲みだ。
手のひらで包みこみたくなるようなころんとしたフォルムが愛らしい。この日はじっくり拝見して愛でるにとどまったが、次回訪れたときは連れて帰ってしまいそうな気がしている。
●INFORMATION
「ミュージアムカフェ&ショップ光風」
秋田県立美術館内のラウンジスペースにあるカフェ&ショップ。メニューの一部で供される川連漆器のコーヒーカップやケーキ皿は美術館オリジナル。現在、館内改修工事のため、4月6日まで休業中。リニューアル後の詳細は秋田県立美術館HPにて。
HP:http://www.akita-museum-of-art.jp/
●著者プロフィール
取材・文/笹森ゆうみ
ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。