地元の登り窯で自然釉にこだわり続ける陶芸家のぐい呑で、黒石地酒をたしなむ。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

地元の登り窯で自然釉にこだわり続ける陶芸家のぐい呑で、黒石地酒をたしなむ。【酒器も肴のうち】
食楽web

 あけましておめでとうございます。『酒器も肴のうち』第29献。2018年、最初の酒器トークにご登場いただいたのは「黒石地酒をたしなむ会」会長の村上武麿さん。

 地酒を愛し、その土地の歴史と文化に敬意を払って発足した会も来年50周年を迎えるという。“たしなむ”という響きに遊び心に富んだ文化人の香りが漂う。たしなむ会については改めてご紹介するとして、さっそく村上さんの酒器を拝見させていただく。

 見せていただいた酒器のほとんどは土もの。そのなかでも真田紐が結ばれた箱書きのある木箱に興味津々。見るからに価値の高そうな気配にビビっていると、村上さんは素早く紐を解き、箱の中からひょいとぐい呑を取り出して軽やかに扱うので呆気にとられた。(※箱書き…作家が署名や捺印などを記して中身を示すもの)

「穴窯と登り窯で焼成し、自然釉にこだわった陶芸家・今井理桂さんの作品です。黒石市内に150mの世界最長大登り窯を築窯し、“津軽烏城焼(つがるうじょうやき)”として意欲的に作陶されている」(村上さん・以下同)(※自然釉…釉薬を使用せず、窯の中で薪の灰が付着して高温になって融けてできたもの。津軽烏城焼は主に赤松を使う)

 村上さんは備前や織部などの酒器もお持ちで、気づけば茶道具を拝見しているような錯覚に。酒器のコレクションも多く、どれを紹介しようかという話になったのだが、最終的に愛用の酒器として選んだのは理桂さんのぐい呑だった。地酒愛に次いで、地元で活動する作家の作品には特別な思いがあるのだろうか。

「それもありますね(笑)。せっかくなら地元にゆかりのあるほうがいいでしょう」。はい、確かに。さすがは“黒石地酒をたしなむ会”の会長だ。

「備前のぐい呑は口造りが薄くて口当たりがいい。それと比べたら口が厚いものは少々飲みづらいけれど、理桂さんのぐい呑はなんとも大らかな気分で飲める。なにより自然釉が生み出す色合いがたまらない。焼き上がりがひとつとして同じものはないし、ぐい呑や徳利ひとつとっても景色が豊かです」

「それから、このぐい呑の時にはこの徳利と決めて、対で合わせて晩酌を楽しみます。これらの徳利だとだいたい1合半くらい入るかな。晩酌は2合ほどがちょうどいい」と、笑う。村上さんの若かりし頃の酒豪伝説を聞いたばかりで、晩酌2合とはなんとも控えめというべきか、可愛らしいというべきか。

 磁器よりも土ものが好きで、お酒はもっぱら燗酒だという村上さん。やはり、燗酒には土もののぐい呑が絵になるのだろうか。酒器の趣味は好きずきだとしても、燗酒党の村上さんが握ったぐい呑は不思議なことにどう見ても燗酒専用にしか見えなくなってくるのである。つづく。

●INFORMATION

「黒石地酒をたしなむ会」
1969年、青森県黒石市の有志で結成。2014年には黒石市が県内初の「地酒乾杯条例」を制定した。発足当時、市内にあった5軒の造り酒屋は現在2軒のみだが、ともに重要伝統的建造物群保存地区に指定された藩政期の木造アーケード「こみせ通り」にあり、地酒推奨に加え、黒石ならではのまちなみや文化の振興、地域活性化にも積極的に関わる。

●撮影協力

松の湯交流館

松の湯交流館

かつて地元の人々に愛された銭湯を再生利活用し、2015年「松の湯交流館」としてオープン。上記と同じ「こみせ通り」にあり、市民はもとより、周辺観光やまちなか散策を楽しむ人の休憩・案内所として開放し、気軽に利用することができる。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。