1皿で繰り広げられる“妄想”の世界

しらすのカレー1種類だけを想像していたら、登場したのはカレー2種類と、4種のおかずが乗った具沢山の1皿だ。
大澤さんは1つ1つ丁寧に、そのおかずの内容を教えてくれる。
時計周りに、下から、長ネギとお豆を煮たダルカレー、タンドリーチキン、しらすのヴィンダルー、老酒で香りづけしたプルドポーク、紫大根のアチャール(漬物)、人参と蓮根のスパイスきんぴら‥‥。
「良かったら、中央のシソの実とインドのお煎餅“パパドゥ”を手でほぐして、パラパラと振りかけて、混ぜてお召し上がりください」とのこと。
1つ1つ味を確かめつついただく。

メインの「しらすのヴィンダルー」。ヴィネガーの酸味とスパイスの風味が飛び込んでくるが、まろやかで、その後に、しらすの風味とお出汁のような旨味がじわりと響く。ジャスミンライスと一緒に食べれば、「大盛りにしておけばよかった」と思うくらい後を引く。

「ダルカレー」をいただくと、こちらは長ネギの甘みとお豆のコクの優しい味。人参と蓮根のキンピラは、しっかりとした和風の味だけど、ふんわり香るクミン。ニッポン代表のおかずなのに、スパイスの変化球が面白い。
また、自慢の「タンドリーチキン」は、フレンチの揚げ煮したコンフィ状で柔らかく、「プルドポーク」は、老酒とシナモンの香りがして中華風にも感じる。また、ほぐした豚肉の食感も楽しい。そして紫大根の「アチャール(漬物)」は、果物の“柿”の甘みが新鮮だ。

こうした個性の強いおかずたちは、それぞれ食材の味や食感のコントラストがはっきりしている。
ただ、大澤さんが言っていたように、それぞれのおかずを崩し混ぜて、さらにシソの実を指でほぐして一緒に食べてみる。すると、一気に香りが統一され、 “和”の味が浮き立ってくるのだ。
「日本にいながらはるか遠くのインドを空想する」ような気分。まさにこちらの店名通り、定食の中に “妄想”を感じる。