時季や日によって使う魚が変わる「九絵定食」は絶品

ランチの一番人気は「九絵定食」(1870円)。煮付けと刺身を同時に味わえる、魚好きにはたまらない定食です。しかし取材の日に、たまたまメニューの中に「なめろう付九絵定食」(2200円)を発見してしまった筆者、迷わず後者をオーダーしました。
「定食に使う魚は固定じゃないからね。日によって魚は変わるよ」と大将の石井政美さん。魚は時季や日によってオススメが変わるもの。魚好きならノープロブレムですね。この日の煮付けはマグロ、なめろうはカンパチだそうです。なめろうといえば千葉の漁師料理の代表格。アジをたたいたものをイメージしますが「うちのなめろうはアジ・イワシは使わないんですよ」と女将の美由紀さん。なにやら強いこだわりを感じるとともに、楽しみでもあります。

トントントントン…とカウンター越しに聞こえてくる包丁の音。大将が魚をたたき、なめろう作りの真っ最中です。このテンポのよい音を聞いていると、なんだか落ち着きます。それが終わると刺身作り。大将が豪快に分厚く切りつけていきます。
すると女将さんが「切り方がバラバラなのよ! 羊羹みたいじゃないの!」と鋭いツッコミ。大将も負けずに「いいんだよ! 俺は職人じゃねえんだ!」と返します。このやり取りには筆者だけでなく他のお客さんたちも思わずクスリ。ふたりのやり取りのおかげで、待ち時間はまったく気にならないどころか、かなり楽しいものに。
豪華すぎる内容とボリュームの定食が登場!

運ばれてきた「なめろう付九絵定食」は、お昼にこれだけ食べちゃっていいの!?と思ってしまうほどに豪華でボリュームある内容です。「マグロはカマだよ」と大将。カマは魚の美味しい希少部位です。この日はラッキーだったかもしれません。

まずはなめろう。トロッとした舌ざわりに、ところどころで身のプリッとした歯ざわりが瞬間的に現われます。そしてやさしく舌を撫でてくれるようなショウガの風味がいい!複数の食感と風味が入り混じったバラエティ感アリアリの味わいです。「ご飯にのせて食べる人が多いんですよ」と女将に言われ、やってみるとこれが激ウマ! こちらの定食は、ご飯のおかわりは2回までは無料だそうですが、その理由がよくわかります。これは1杯ではとても足りません…!

次に箸を伸ばしたのはマグロのカマ。煮汁がよく染みています。骨から外して食べていきますが、これもご飯にピッタリ。ふわとろなやさしい食感で、脂がのっているのか、舌の上をツルンと滑るような感覚もあります。煮汁のこってり感とマグロの旨みがじわ~んと広がり、とにかく後を引く味わいです。

刺身はマグロ、ヒラメ、サーモン、ブリ、シメサバ、エビ。豪快に切り分けられた刺身で、分厚く面積もデカい! 口に入れた瞬間、鮮度の良さがわかります。ひと切れだけで口の中がその魚の旨みエキスで満タンにされてしまったかのよう。それが6種類もあるとは…! もう満足感を通り越して恍惚とした幸福感すら覚えます。

豪華でボリューミーな定食ですが、女将さんによると「食材を余らせるくらいなら新鮮なうちにお客さんに食べてもらったほうがいいから」と、一品プラスするようになったそうです。お客さんの中にも「アジフライ定食を頼んだけど刺身も食べたい」と言う人もいたのだとか。お客さんと食材への愛をひしひし感じますね。

それにしても、お店での大将と女将のやり取りを見ていると、『孤独のグルメ』で俳優さんたちが演じる様子がリアリティある見事な”コピー”であったことがわかります。何度でも通いたくなる素晴らしいお店でした。
(撮影・文◎松本壮平)