とんかつ呑みの後は『スイッチコーヒー』で極上の一杯を

夕日に向かって権之助坂を下っていく。目黒界隈は、江戸以来の歴史を感じさせる風情がある。向かう先は『スイッチコーヒー』。コーヒー休憩はとても大事。大西君のコーヒーは、上等なワインの味がする。例えるならばジュラのプールサール。色は淡いけど味の濃度は深く、やや好戦的な、夜の味がする。だから彼には悪いけど、朝はあまり飲まない。しかし酒を飲んでいる流れには最高にハマる一杯だ。僕はコーヒーのスペック的なことはまるでわからないが、彼とご飯を食べながら会話をしていて感じるのは、とにかく味覚が鋭敏だということ。きっと自分の中に絶対音感みたいな味のマトリックスを持っていて、淡々と精度高いローストをしているのだと思う。

そしてなんとこちらでは、ワインを飲むこともできる。もちろん彼の趣味全開な、キレキレのナチュールばかり。もしふたり以上いたら、ボトルでオーダーしてみるのもいい。古い住宅街に面した外のベンチに座り、風を感じながら飲むワインは本当に美味しい。ワイン好きの店主にも一杯注ごう。

すっかり日も暮れた。山手通りを渡り、さらに目黒通りの坂を登っていく。寄生虫博物館の角を左折してしばらく進み、不動公園の奥にある目黒不動尊の小さな裏門を入る。本堂で手を合わせ、ほろ酔いの身体を清める。コーヒー、寺社、銭湯は、ハシゴ酒の三大寄り道と覚えたい。参拝を終え急な石段を下ると、正門前の商店街へとはき出される。目的地の『グリフォン』はすぐそこ。寺本来の正道を逆から進むこの感じも、背徳感があって気に入っている。