若き日の自分を知る店で、しっとりと夜が更ける

3軒目は、やはり西麻布にある、心地の良い憧れのリビングのような空間『JOJO』。オーナーの城倉隆さんには、私が学生のころからお世話になっている。2005年にオープンした伝説の『AZABUHAUS』は学生時代の思い出のお店。私はただの小娘だったけど、いつもちゃんと大人の扱いをしてくださった。
23時間営業していたレストラン。「いつ寝てるんですか?」って何度も聞いた気がする。連日満席の店で全てのお客様に同じだけの気を配る城倉さんの姿を、今でもはっきり覚えている。「今日のご気分は?」とか「何を食べたい?」より先に、「回したてのアイスクリームがあるんだけど、それと冷たい牛乳はどう?」なんて、伺えば何かぴったりのものを運んできてくださる魔法使い。「そうそうそれが食べたかったの、顔に書いてあった?」と心は鷲掴みだった。
『AZABUHAUS』閉店後、西麻布に『JOJO』を開店。前店同様、あの頃と変わらずとびきり洗練され居心地の良い空間。ただ、ひとつ変わったことがある。いつもフロアに立って接客していた城倉さんは『JOJO』になってカウンター越しの人となった。当時は想像もしなかったけれど、今は料理にも腕をふるう。それがとっても美味しい。

デザートとワインだけにしようとしていたはずが、いよいよピークになった台風。窓の外は猛烈な風と雨の音。しばらくは外にも出られないだろう。そんなことを思い迷っていると、「前菜少しずつ盛り合わせとワインにする?」と今日も期待通りの提案をしてくれた。「そのあと松茸と九条ネギのパスタ、まだ食べられそうならブランマンジェとメロンのデザートがあるから。」
嵐が過ぎるのを待っている間、あの頃のこと、あの店のこと、よく一緒にいた人のこと、城倉さん自身のことにも話は及んだ。10数年前には今ほどは写真を撮らなかったから、共有しているはずの同じ景色を思い浮かべながら、振り返ることのなかった時間を引っ張り出し、初めて長い昔話をした。
自分のライフスタイルが変わったのか、あの頃の人たちがまた別の道を生きているのか、昔とは随分違う日々だけど、この街のどこかに、あの頃の私を覚えている人がいてくれることにホッとする。

「あなたも大人の女性になったね」と言われ、少し照れくさかった。若い頃の自分に会えたような、ちょっとだけ切なさも感じた、今夜のはしご酒。こんな日が撮影日になったことも「偶然のようで必然だったね」と。

台風は過ぎ去り、外は何事もなかったように静けさを取り戻した。『JOJO』を後にし、雨と風に一掃されてピカピカの道を歩いた。誰もいない交差点はいつもと違って見え、漆黒の空はどこまでも澄んで吸い込まれそうだった。
「そうだ、東京タワーも綺麗なんじゃない?」と、まだまだ彷徨いたくなって、帰る方とは逆に向かった。あと一杯呑んで帰ろうか。
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●SHOP INFO
◯1軒目
店名:餃子de巴里
住:東京都港区六本木4-6-6 小高ビル2F
TEL:03-6434-5277
営:18:00~23:30
休:日・祝
◯2軒目
店名:Bar Qwang
住:東京都港区西麻布3-1-18 RD西麻布B1F
TEL:03-5410-8998
営:18:00~翌2:00
休:日
◯3軒目
店名:jojo
住:東京都港区西麻布4-10-7 西麻布410ビル3F
TEL:03-6418-8205
営:18:00~
休:日・祝(営業時間や休日については要問い合わせ)
(文◎大塚 瞳 撮影◎吉澤健太)
※当記事は『食楽』2019年冬号の記事を再構成したものです