いざ魅惑のエチオピア・ワールドへ

店内はエチオピアカラーで彩られ、テレビモニターではエチオピアのミュージックビデオが流されています。エチオピアのポピュラーミュージックは曲調が日本の演歌に似ていてちょっと哀愁があり、ぼんやりと歌詞を意識せずに聴いていると、日本の曲かと思ってしまいます。

エチオピア料理は、インジェラというクレープ状の主食でワット(スパイシーな煮込み)やアリチェ(マイルドな煮込み)と呼ばれる様々な煮込料理を包むようにして食べます。
今回は3名以上でオーダーできる「マヒベラウィ(MAHIBERAWI)」という盛り合わせのパーティ料理をオーダーしました。

この料理は色々な料理が少しずつほぼ全種類いただけて、食後のコーヒーセレモニーもついています。初めてエチオピア料理を食べる人には、このコースが絶対におすすめです!

ティベベさんがずっしりと料理がつまった「マッソーブ」(器)を運んできました。今回の料理はすべてティベベさんが作ってくれたそうです。さて、いざフタをオープン!

3人前にしても、すごい大盛りです! そこで、エフレムさんがひと言。
「3人前って言われたけど、写真撮るっていうから5人前くらい盛り付けちゃった(笑)」
だそうなので、これは5人前だと思ってください。

さらに、最初の盛り付けが少なくても(いや、3人前盛りでも十分多いのですが)食べ進んで減ってくると、「おかわりあるよー」と継ぎ足してくれるから、ボリュームは見た目以上!
盛り付けられるワット&アリチェはメインはだいたい固定されていますが、野菜など季節によって変わるものもあります。

前述したクレープ状の主食・インジェラは、「テフ」というイネ科の穀物の粉を水で溶いて3~5日くらい置いて発酵させ、クレープのように丸く広げて鉄板で焼いて作ります。焼いていて表面にフツフツと穴が開いてきたら、フタをして蒸し焼きに。焦げ目のまったくないしっとりふわふわした感触に仕上げます。
インジェラをそのまま食べると、酸味と独特な風味があります。酸味は発酵の度合いによって変わり、発酵が進んだ強い酸味のものは「雑巾っぽい」などと言われることも。しかし筆者はその風味も好きで、いつも美味しくいただいています。
この店のインジェラは酸味少なめで、慣れていない人でも食べやすいタイプ。初めての人も美味しく楽しめるハズ。
マヒベラウィには肉、野菜、豆など様々な食材を使った料理が入っていて、この一皿で栄養もばっちりです。代表的な料理を見てみましょう。

中央にあるのは「ドロワット」。エチオピアの料理で一番有名かもしれません。大量の玉ねぎ、スパイスなどでチキンと茹で玉子を煮込んだカレーっぽいシチューです。

「デュレト」は牛のハチノス、レバー、牛肉などが入った炒め物。今回の料理の中で一番辛くて好みでした。
また、それぞれに味の違うレンズ豆の煮込みも。横に見える白いものは自家製のカッテージチーズです。このほか、牛肉のエチオピア風焼肉も。野菜と一緒に炒めてありスパイシーで美味しい!

今回、筆者に同行の2名はエチオピア料理初体験。そこでエフレムさんに食べ方を教えてもらいました。
まず、洗面所に行って手を洗ってくるエフレムさん。
「この料理は手で食べます。どうしても手で食べるのに抵抗がある人にはスプーンとフォークも出します。でも手で食べた方が絶対に美味しいよ。ぜひ手で食べてみてください」
と言いつつ、エフレムさんが巻いてあるインジェラを1本手に取って拡げます。

そして一口サイズにちぎって、インジェラでおかずをつまみ取ります。

ここで、パクッと食べるのかと思っていたら、エチオピアの習慣を教えてくれました。
「エチオピアでは、最初のひと口は作ってくれた人に感謝の気持ちで食べさせてあげるんです。アーンって。友達とかお客さんとかにも順番にお互いに食べさせてあげる」
そこで、同行していたライター仲間が食べさせてもらいました。

これは「グルシャ」といって、愛情やもてなしの気持ちを表現する習慣なのだそうです。パーティの始めにぜひやってみましょう。きっと盛り上がりますよ。

エチオピアビールで乾杯して宴の始まりです!

たっぷりの玉ねぎとトマトなどで牛肉を煮込んだカイワットはピリ辛。コク深く、エスニック料理を食べ慣れない人でも美味しくいただけるはず。

肉を食べて、野菜を食べて、豆を食べて、と順番に食べているとエンドレスで食べ続けられてしまいます。それぞれのおかずの味が結構しっかり違うので飽きません。
慣れてくると何も考えずに反射的に「インジェラをちぎって、おかずをつまんで、パクッ」を繰り返すようになります。
なので、酒もすすむし、会話も弾む! まさにパーティ向きの料理です。

そんなこんなで夢中で食べて、飲んで、しゃべっていると、ふんわりとコーヒーの良い香りが漂ってきました。

周知の通り、エチオピアはコーヒーの原産地として有名です。そのエチオピアでは、茶道のような感じでコーヒーを楽しむコーヒーセレモニーがあります。このコースでは最後にこのコーヒーセレモニーがついているのです。

お盆の上ではお香も薫かれています。焙煎したてのコーヒーとお香の香りのハーモニーで四ツ木が瞬時にエチオピアに。

まず最初はコーヒーをそのまま、砂糖を入れたい人は好きな量を加えていただきます。香り高く、苦味の少ない、すっきりとした味わい。美味しいです! コーヒーはおかわりもできて2、3杯いただけます。

少し飲んだら、または2杯目からはこの「ティナダム」というハーブを入れて飲みます。ティナダムは生のものは日本で手に入らないので、自宅で育てているそうです。
ティナダムは、そのままだと山椒を少し爽やかにしたような、すっきりした香りです。これをコーヒーに入れると、あら不思議。コーヒーの香りがより複雑に深みを増したような。
この日は平日17時の開店時間に来店した我々。その時点では一番乗りで、しばらくしたらエチオピア人カップルが来店。食べ終わる頃には外国人の団体が来店でほぼ満席の大賑わい。いつ来ても結構混んでいて日本人のお客さんも多いです。
日本人には馴染みのないエチオピア料理でこんなに人気なのは、やっぱり美味しいから。そしてこの店の温かい雰囲気が居心地いいんです。未体験の方は、ぜひ四ツ木にエチオピア体験に行ってみてください! 特に週末は予約必須です。
●著者プロフィール
工藤真衣子
Photographer:人物を中心に様々な媒体で撮影。グラビア、インタビュー、プロフィール、ドラマ映画スチールなど。ライター:食レポ、レシピ記事は現地系異国メシ、珍しい食材、味のある店など個人的に好きな店やものを紹介。新宿御苑前で写真館「スタジオ アトリーチェ」経営。