
肌寒い季節になると恋しくなるもののひとつがココア。小さな頃からコーヒーでも紅茶でもないココアという飲み物にどこか特別なものを感じていたが、たぶんあのバンホーテンのココアの缶が幼い自分に異国情緒を与えていたせいかもしれない。
ココアをつくるときに愛用しているのが工房アイザワの「両口付きミルクパン」である。とにかく目を引くのが持ち手。まるでリスの尻尾のようにふっくらと丸味を帯びた木のハンドルは、誰だって思わず手で触りたいという衝動にかられてしまうだろう。しかもこのハンドルの手になじむ感じはもちろん、角度もよく考えてられていてとても扱いやすい。お椀型のステンレスの本体には、縁の左右が成型され控えめな注ぎ口になっている。見た目も愛らしいが機能や使い勝手も申し分ないのである。
こういうデザインセンスのある人ってどんな方なのだろうと、メーカーの人に尋ねてみると、意外や意外、なんと会社の会長さんがデザインしたものだというではないか。しかもこのミルクパン、実は30年近く前に発売され今でも定番として製造され続けているロングセラーなのである。
会社を牽引してきた人が自ら愛情と情熱を注いで、こういった商品を開発しているなんて嬉しいではありませんか。機能やスタイルだけではない、デザインとは何か、ものづくりとはどういうことか、長き実践の中から育まれたであろう、そんな哲学と愛がしみこんだミルクパンの名品だと断言したい。

●著者プロフィール

大熊健郎
CLASKA Gallery & Shop DOディレクター。1969年東京生まれ。インテリア会社、編集プロダクション勤務を経て2008年CLASKAのリニューアルを手掛ける。同時に立ち上げたライフスタイルショップ「CLASKA Gallery & Shop DO」ディレクターとして、バイイングから企画運営全般を担う。
http://do.claska.com/