【やかん遍路】ベスト・オブ・やかんはどれ?【モノ好きの食卓05】

【やかん遍路】ベスト・オブ・やかんはどれ?【モノ好きの食卓05】

東屋の銅之薬缶(どうのやかん)| 食楽web

CLASKA Gallery&Shop DOのディレクターであり、日用品からアンティークまで大の買い物好きで知られる大熊健郎さん。そんな“モノ好き”人間のお眼鏡にかなった、食にまつわるモノとコトを紹介します。

 これまでインテリアや雑貨の業界に長く身を置いてきたこともあり、周囲にはデザイン関連の仕事をしている人たち、つまりモノ好きな人間が多い。そしてモノ好きな人間にやかん好きが多いのは我々の世界では周知の事実なのであります(本当です!)。

 私の知る某大御所アートディレクター氏(この方、粋人、趣味人としてつとに有名)に至っては、そのやかん愛が高じて自ら長年に渡って集めたやかんの写真集まで出してしまった。本来ひとつあれば事足りるはずのやかんをそんなに集めてどーするの? って、みなさん思うでしょうが、私にはその気持ちがよーくわかる。

 世の中にはキャラクターの絵がプリントされたファンシー系のやかんから、超モダンなデザインのものまで、多種多様なやかんが出回っているが、いざ気に入ったものを探そうとするとなかなか見つからない。これがまたやかんのやっかいなところ。見つからないと欲しくなる、それがコレクターならずとも人情というものである。

 先のアートディレクター氏の足元にも及ばないが、私にもささやかなやかん遍歴がある。最初に意識して買ったのが日本のプロダクトデザイン界の巨匠、柳宗理さんがデザインしたステンレス製のやかん。試作を繰り返し、時間をかけて徹底的に機能性と使い心地を追求してデザインされたとても実用的な一品だった。

 それから北欧デザインのアイコン的存在ともいえるフィンランドの巨匠、アンティ・ヌルニスニエミのコーヒーポット。さらに今の仕事をはじめてやっぱり日本のモノで探したいと思って出会った工房アイザワのストレートケトル。台湾旅行に行った際に中国茶の店で一目惚れした土瓶。これなんか、やかん代わりにお湯を沸かすのにとってもいいのである。

 そしてずっと購入を検討しているが東屋のその名もずばり「銅之薬缶」。銅製のやかんにありがちなどこかお高くとまった仰々しさがなくやかん然としたところに得も言われぬ魅力がある。まあこうやってなかなか決定打にたどり着けないのだが、それもまた楽し、というわけである。

 どうしてそんなにやかんなんぞに惹かれるのか、などという質問は野暮である。湯気を上げながらあの「シュッシュ」と耳心地よい音を立てて働く姿、ふくよかな胴体ともの言いたげな注ぎ口とが与えるキャラクター性、なんとも愛嬌があるではないか。

ささやかなやかんの旅路の足跡。理想のやかん探しの旅は続く…

ささやかなやかんの旅路の足跡。理想のやかん探しの旅は続く…

●著者プロフィール

大熊健郎

大熊健郎

CLASKA Gallery&Shop DOディレクター。1969年東京生まれ。インテリア会社、編集プロダクション勤務を経て2008年CLASKAのリニューアルを手掛ける。同時に立ち上げたライフスタイルショップ、CLASKA Gallery&Shop DOのディレクターとして、バイイングから企画運営全般を手がけている。
http://do.claska.com/