見直されているチューハイの可能性

編集部:巷ではレモンサワーをはじめチューハイ人気が上昇中ですが、お二人がチューハイに魅力を感じたきっかけについて教えてください。
大西:僕はまさに、こちらの大野さんが『沿露目(ぞろめ)』で出していたレモンサワーを飲んでからなんですよ。チューハイとかレモンサワーというと、みんな経験があると思うんだけど、20歳になった学生が最初に飲むようなお酒でもありますよね。サークルの飲み会なんかで楽しむ感覚。
大野:まあ、分かります。ある意味、お酒の入門編みたいなね(笑)
大西:それ以降、チューハイはそれほど飲んでいたわけじゃなくて、ふだんはビールから日本酒に流れるような飲み方だったわけです。それが取材のときだったか、大野さんのレモンサワーに出会って、その時、新橋の『ランド バー アルチザン』(※1)ですよね? 大野さんが参考にした美味しいレモンサワーがあると聞いて、後日『ランド バー アルチザン』にも行ってみたんです。そうした体験がチューハイを見直すきっかけになりましたね。チューハイって味わう楽しみのあるお酒なんだと。
大野:実を言うと僕も若いころは、割り物は飛ばして日本酒を勉強していたんですが、日本酒のお店がどんどん増えてきてしまった。そこで何か別の切り口が必要だと思い始めたんです。日本酒やワイン、クラフトビールって、僕らからすると注ぐだけの飲み物なんですよね。なので、お客さんに来てもらうには、そこで作って初めて味わえる、そこでしか飲めないようなものを1つ作ろうと思って。それを探し歩く中で衝撃を受けたのが『ランド バー アルチザン』の伊藤さんのレモンサワーだったんです。
(※1)『ランド バー アルチザン』…東京・新橋にあるオーセンティックバー。知る人ぞ知る、地下にあるカウンター6席の隠れ家。1人で飲むのにはもちろん、2人で静かに、穏やかに酒を酌み交わすのにも適した、和やかかつ落ち着いた雰囲気のバー。
大西:大野さんのお店もベースはジンですよね。
大野:ジンです。伊藤さんが丁寧に教えてくれたので、そこはベースも分量も継承しています。
大西:大野さん、研究熱心だからたくさん飲み歩かれたと思うんですが、『埼玉屋』(※2)さんとか、『もつ焼き ばん』(※3)さんとか、古典酒場系のレモンサワーも飲まれました?
(※2)『埼玉屋』…東京・東十条にあるやきとんのお店。店主のこだわりが強いお店としても有名だが、その味は東京随一の呼び声も高く、東京を代表する名店。
(※3)『もつ焼き ばん』…東京・祐天寺にある大衆酒場で、レモンサワー発祥の店。元祖の味を求め連日行列ができる人気店。
大野:飲みましたね。チューハイって、掘り下げていけば、誰もやっていないものが作れるんじゃないかと思います。チューハイには日本酒に代わる「割るお酒の可能性」があるなと感じましたね。
チューハイは、どのタイミングでもウェルカム
大西:とくにレモンサワーは、急激に流行ってきていますよね。編集者の目線で言うと、ハイボールと同じくらいの流れで盛り上がってきていて、最近は、ビールは飲まないけどレモンサワーなら飲むという人もいる。大野さんから見てブームの理由って何だと思います?
大野:僕が思うのは、大衆酒場のメニューに必ずあるもの、例えばビール、ウーロンハイ、レモンサワー……。それらが一つずつ掘り下げられ始めているんじゃないかと。いまビールはクラフトビールでしょ。昨今はお茶がブームなので、これから物凄く旨いウーロンハイが出てくるかもしれませんよね。
大西:なるほど。スタンダードだった飲み物にまだ可能性があることにみんな気付き始めていて、レモンサワーもそのステージに来ていると。
大野:そうです。チューハイも今までは焼酎で割るのが定番だったけど、ベースを変えるとこんなに味が違うんだ、とかね。
大野:チューハイはアレンジがいろいろありますしね。缶チューハイもグレープフルーツやオレンジはもちろん、デコポンがあったり、はっさくがあったり、柑橘系だけでもものすごい数ですから。これだけ多彩なチューハイ文化があるというのは日本独特じゃないですか。
大西:柑橘系のサワーって海外ではそんなに多くないですよね。そもそもお酒を割らずにそのままのむのが主流だし、これだけいろいろ手間をかけて作ったり、食中に合わせて考えたりするのは、確かに日本らしい。糖質を気にする傾向もあるかもしれませんが。
大野:うちは「美味しければいい」というお客さんが多いですが、これまでの「とりあえずビール」に代わる1杯目としてサワーを注文する人が増えてる印象ですね。
大西:1杯目からレモンサワー行く人、増えましたよね。
大野:そういう意味では、チューハイってどんなシーンでもタイミングでも入ってこれる飲み物だと思うんです。僕は日本酒を飲むのですが、日本酒は口が重たくなるので1回サワーでリセットして、それからまた日本酒に行ったりする。1杯目にも行けるし、リセットにもいいし、最後の締めにもいい。そういうお酒って、意外と他にないように思います。
大西:家飲みなら、なおさらそういうお酒ですよね。RTDの中でも缶チューハイの売れ行きが伸びているのは、そうした理由もあるかもしれませんね。