山形が生んだ冷やしラーメンとは?

店先の大きなのぼりには「牛骨あっさり山形ラーメン」とあります。私がお気に入りの理由は、まさにその牛骨スープなんです。
ところで「山形冷やしラーメン」を食べたことがない人のために少し説明しておくと、温かいラーメンを冷やしただけのものでもありませんし、酸味のある「冷やし中華」や「冷麺」とも全く別物です。醤油味の中華そばを、冷たくして食べられるように、新しくスープを開発した食べ物なのです。では、なぜ東北の地で冷やしラーメンが誕生し、発展を遂げたのかというと…。
まず、山形県民は、年間1世帯あたりの外食における「中華そば」の支出金が全国トップと言われるほどラーメン好き。だから春夏秋冬いつでも中華そばを食べます。そして夏の山形といえば、日本でも最も暑く、最高気温40℃以上を叩き出す猛暑の地。そこで県民はクールダウンするための様々な習慣が身についており、中でも猛暑日は「冷やしラーメン」が定番なのです。

そして「冷やしラーメン」の元祖が、山形市にある『栄屋本店』。同店のホームページによれば、そばやうどん、中華そばを出していたところ、お客さんから「冷たいそばと同じように冷たい中華そばが食べたい」とリクエストされ、1年がかりで冷やしスープを完成させて、昭和27年に発売したんだそうです。そのスープこそが、あっさりとした牛骨スープなのです。

『大木』の「山形名物冷やしラーメン」の牛骨スープは、濃い醤油色で、ひと口飲むと、胡麻油がふわりと香り、牛脂の旨みが押し寄せます。冷たいスープというのは、熱々のスープにはない直球勝負なところがあって、旨みや塩味の塩梅がダイレクトに伝わってきます。ですから最初の一口目のインパクトはかなり大事です。
そして、ポイントがもう1つ。温度変化が少ない冷たいラーメンは、途中で飽きがち。しかし、ここのは不思議なくらい、最後の一滴までくどくならず、むしろ癖になってくるような味わいなんです。
山形から取り寄せているという多加水麺をこのスープにくぐらせると、ツルッ、モチッとした麺の表面にスープがしっかりとまとわりつきます。さらに秀逸な点といえば、トッピングの牛肉です。低温調理の柔らかい牛肉は、まるでローストビーフのよう。お肉の旨みがたまりません。

ご主人の大木茂さんによれば、決めてはやはりスープだそうで、牛骨と香味野菜、煮干しなどの魚介系で出汁をとっているとのこと。この配合比率にも非常に試行錯誤したと言います。また、冷やしラーメンと温かいラーメンの大きな違いは油。くどくなく、それでいてコクとインパクトを持たせる工夫は、お見事だと思います。
牛肉をたっぷり使って作るのに、良心的なお値段が嬉しくて、私は、暑くなると『大木』に足が向きます。ぜひ、皆さんもあっさり牛骨スープの「山形冷やしラーメン」を試してみてください。ちなみに、同じ牛骨スープで作る温かいラーメンの「チャー牛めん」(限定20食1000円)は牛肉がたっぷりのっていてまるで肉料理。こちらも美味しいですよ!
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:大木
住:板橋区大山東町60-15
TEL:03-5944-2615
営:11:00~21:00 (コロナウィルスの影響により当分の間、閉店を18:00にしています)
休:月
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。