アジアを代表するスーパーシェフが夢のコラボ! 美食家垂涎の食事会イベントに潜入

アジアを代表するスーパーシェフが夢のコラボ! 美食家垂涎の食事会イベントに潜入
台北『RAW』のオーナーシェフ、アンドレ・チャン氏(写真左)と銀座『ESqUISSE』 エグゼクティブ シェフ、リオネル・ベカ (写真右)によるコラボレーション | 食楽web

 2019年、令和元年夏。銀座『エスキス』にて華麗なる食のコラボレーションが行われました。台湾で最も予約が取れないレストラン『RAW』のオーナーシェフアンドレ・チャン。

 そして、豊かな感性と繊細なタッチの料理で定評のある『エスキス』のエグゼクティブシェフ、リオネル・ベカ。この2人による美食家垂涎の食事会が、シックでエレガントな空間に生まれ変わったここ『エスキス』で、7月28日と29日の昼夜2回、2日間にかけて繰り広げられたのです。

「卵黄、牛、キャビア」(アンドレ)鶏のキンカンを牛肉で包み、キャビアをあしらったアミューズ。バジリコのピューレと四川山椒の組み合わせが、ユニーク
「卵黄、牛、キャビア」(アンドレ)鶏のキンカンを牛肉で包み、キャビアをあしらったアミューズ。バジリコのピューレと四川山椒の組み合わせが、ユニーク

 実は、この2人によるコラボディナーは今回で2回目。一回目は今年の1月、台湾の『RAW』で開催されました。

 事の始まりは昨年9月のこと。アンドレシェフからリオネルシェフへの熱いラブコールがきっかけだったそうで、それはまさに17年ぶりの邂逅でした。というのも、アンドレとリオネルの2人は、若かりし日、フランスの『メゾン・トロワグロ』で共に研鑽を積んだ仲だったからです。

 その後、それぞれの道を歩み、独自の世界観を築いてきた両シェフ。これまで歩んできた活動のスタンスは違っていても、互いに通じ合う感性は時が経っても変わることはなく、今回のコラボレーションでも、驚くほど息のあったコース展開を見せてくれました。

 アミューズからデザートまで6つのカテゴリーごとにテーマを決め、2人がそのテーマに沿って、一皿づつ全部で12皿をプレゼンテーションしていく形式でしたが、料理を作る段階では、もうこれといった打ち合わせも無しで行われたのだとか。

「マッシュルーム、酒粕、フォアグラ」(リオネル)羽根のようにエレガンスなマッシュルームは、日本の折り紙の鶴から得たインスピレーションによるものとか。濃密なフォアグラとの相性も優艶。
「マッシュルーム、酒粕、フォアグラ」(リオネル)羽根のようにエレガンスなマッシュルームは、日本の折り紙の鶴から得たインスピレーションによるものとか。濃密なフォアグラとの相性も優艶。

「テーマを決める段階では、お互い、時間をかけて綿密に話し合いましたが、決めた後は、特に打ち合わせることもなく、それぞれが思うままに創りたい料理を創りました。リオネルと私はアートについても人生についても視点がよく似ている。だから、料理のニュアンスも自然と似てくるんじゃないかな」

 アンドレシェフがそう言えば、リオネルシェフも「お互い、相手のことはよくわかっているから、まるでミュージシャンのセッションのように、自然に料理は決まっていきましたね」

 楽しげに語る二人の言葉通り、当夜催されたディナーは、まるで1人のシェフが創りあげているかのような素晴らしいコンビネーションプレイで、私達の舌を魅了したのです。

 さて、そのコース内容は、次の通り。

◎芸術、色彩、形状
卵黄、牛、キャビア(アンドレ)
マッシュルーム、酒粕、フォアグラ(リオネル)

◎遺産、工芸、伝統
ニガウリとシリアル(アンドレ)
貝類とハーブ(リオネル)

◎人類、出会いとつながり
“アンドレの悪夢”茄子、ブリ、炭オイル(アンドレ)
“もっと薄くできないの?”豆乳、ベーコン、かぼちゃ(リオネル)

◎風景、人生、要素
キンキ、梅、花ズッキーニ(リオネル)
軍鶏、黒大根のブリュレ、旨味(アンドレ)

◎美と儚さ
アイユー、タマリロ、ホエイ(アンドレ)
小豆、カシス、発酵米(リオネル)

◎希望と懸念
クロウメモドキのキャンディ(アンドレ)
アマゾンカカオ アーモンドパンケーキ(リオネル)

「ニガウリとシリアル」(アンドレ)ニガウリの苦味が軽やかにポリッジとあわさり、上品な味わいを口中に残す。見た目もエレガントな一皿
「ニガウリとシリアル」(アンドレ)ニガウリの苦味が軽やかにポリッジとあわさり、上品な味わいを口中に残す。見た目もエレガントな一皿

 各々のテーマには、2人の様々な想いが込められています。想い出、使命、未来への継承-そんな彼らのエモーションが、一皿一皿、実に巧みに美しく表現されています。

 例えば冷前菜。“遺産、工芸、伝統”のテーマに合わせ、アンドレシェフが紹介した一皿は、羽根のように薄くスライスした緑と白の苦瓜を交互に並べ、その下にはポリッジ(シリアルを粥状に煮たもの)をしのばせたもの。

 苦瓜の爽やかな苦味とポリッジの様々な食感が、新しくもどこか懐かしさを感じさせるこの料理には、長い間故郷を離れ、異国に活動の場を求めてきたアンドレシェフの追憶とTaiwaneseとしてのアイデンティティが込められています。

 曰く「台湾では、夏になると苦瓜と冷たいお粥を塩卵をよく食べるんです。子供の頃のそんな思い出を頭に浮かべながらこの料理を創りました。こうした(台湾の)伝統的な食習慣を次世代に残していきたいですね。」
 -自分が誰なのか、(自分が)どこからきてどこに行くのか-を、ここで表現したかったのだと語ります。

「“もっと薄くできないの?”豆乳、ベーコン、かぼちゃ」(リオネル)まるでサテン生地のような豆乳のヴェールのドレープも美しく、その下にはジロール茸とヘーゼルナッツが隠れている。貴婦人のような一皿
「“もっと薄くできないの?”豆乳、ベーコン、かぼちゃ」(リオネル)まるでサテン生地のような豆乳のヴェールのドレープも美しく、その下にはジロール茸とヘーゼルナッツが隠れている。貴婦人のような一皿

 また、温前菜の“人類、出会いとつながり”は、2人の修業時代のエピソードを表現したもの。リオネルシェフの《“もっと薄くできないの?”豆乳、ベーコン、かぼちゃ》。

 これは、ロアンヌの『トロワグロ』でシェフを任されていた時のミッションにちなんだ一皿。リオネルシェフによれば、「シェフのミッシェルから言われた最後の仕事が、凝乳のヴェールを完成させることでした。作っても作っても、もっと薄いヴェールにしなさいと言われ、苦労しました。」
 その後、日本でシェフを任された際、凝乳の代わりに豆乳ににがりをうち、同じように豆乳のヴェールを作ったのだそうです。それは、言わばミッシェルシェフへのオマージュでもあったのでしょう。

 今回は、その豆乳のヴェールでジロール茸を包みこんでいます。一見、シンプルなようでいてその裏に潜む複雑にしてエレガントな味わい。それは、リオネルシェフの料理全体に言えることでしょう。

「アンドレの悪夢」、ナス、ブリ、炭オイル(アンドレ)薄くスライスしたブリの下には、焼きなすで作ったソースにトビウオや椎茸で作ったふりかけ状のものをあけている
「アンドレの悪夢」、ナス、ブリ、炭オイル(アンドレ)薄くスライスしたブリの下には、焼きなすで作ったソースにトビウオや椎茸で作ったふりかけ状のものをあけている

 一方、“アンドレの悪夢”は、来る日も来る日も200人分200個のナスの皮むきと下ごしらえを課せられた日々への、ある意味オマージュとも言える一品かもしれません。あの時代があったからこそ今の自分がある、そんな想いが込められているような気がしたからです。

「貝類とハーブ」(リオネル)一見、シンプルなサザエの料理のようでいて、殻の中には、白いかや貝類、様々なハーブがつかわれている
「貝類とハーブ」(リオネル)一見、シンプルなサザエの料理のようでいて、殻の中には、白いかや貝類、様々なハーブがつかわれている

 今回のコラボレーションでも、互いに手ごたえを感じたアンドレシェフとリオネルシェフ。既に次なるステージへとその視線は向けられているようで、

「もちろん、第3回目を考えています。まだ、どことは決めていませんが、日本でも台湾でもありません。我々は世界を股にかけているといえば大げさですが、どこでやるかはさしたる問題ではありません。ただ、私達が価値があるというものに対してその価値をみなさんと共に分かち合える場であればいいのです。」

 おもちゃを前にした子供のような笑顔で語るアンドレ、リオネル両シェフ。
 さて、次回は、また、どんな素敵な企画で私達を愉しませてくれるのでしょうか。