「神田志乃多寿司」のかんぴょう巻(淡路町)【第11回 小みやげネタ帖】

差し入れ以上、贈り物未満、アンダー1,500円のささやかな手みやげを“小みやげ(こみやげ)”と勝手に命名。気の置けない友人に、ちょっとしたお礼に。おいしくて財布に優しいうえに、もらった側もお返しいらずの気楽なアイテム。関西出身ライターが日常遣いする、テッパンの東京みやげをご紹介します。

江戸っ子気分を味わえる
小粋なかんぴょう巻

「神田志乃多寿司」のかんぴょう巻(淡路町)【第11回 小みやげネタ帖】

写真は16個1,491円。予算に応じて数を調整してくれる。「できたてよりも時間を置いたほうが、かんぴょうとシャリの水分が海苔と馴染んでおいしいんですよ」と店主の原田さん。 | 食楽web

 かんぴょう巻はお好きだろうか? かくいう私は数年前まで見向きもしなかった。「なんか地味ですよね……」とある人に告げると、「何言ってるの、寿司はかんぴょう巻が一番おいしいんじゃない」とやんわり怒られたことがある。その時はぴんとこなかったのだが、今ならよ~く分かる。かんぴょう巻は“究極のご馳走”なのだ、と。

 香り高い江戸前の海苔に、赤酢と塩だけでまとめたキリッとしたシャリ、飴色の立派なかんぴょう。風味豊かなかんぴょうの旨みがじゅわりと広がり、深い味わいがたまらない。シンプルゆえの粋な世界に、好感度はうなぎのぼり。感動的なおいしさに打ち震えながら、「うわーん、地味だなんて言ってすみませんでした……」と大反省したのだった。

 1902(明治35)年の創業時から、かんぴょう巻と稲荷寿司が二大看板。「寿司を箱車に載せて売り歩いていたそうです」と4代目の原田勝信さん。以来115年にわたり、時代にあわせて少しずつ味を変えてきた。老舗ほど見えない進化を続けているものだ。

 寿司店ゆえ、対面販売。注文するとカウンターのすぐ向こうで職人が手際良く寿司を巻く。1人で1時間に150本を巻き上げるというから大変だ。入社6年の上野正吉さん曰く、「シンプルなかんぴょう巻こそ一番難しいです」。東京最小といわれる横長の海苔から、シャリと太いかんぴょうがはみ出さないように収めるのは至難の業。でもこのスタイルだからこそ、噛み締めた時にかんぴょうのコシとみずみずしさが際立つ。

 その高い完成度に、かんぴょう巻1本で勝負したくなる。食べる機会が少ない関西の親戚は「さっすが、お江戸の味やねぇ」と大喜びし、左党は「渋いねぇ、これで酒を飲むよ」とえびす顔。にわか東京人を江戸っ子に仕立ててくれる、ありがた~い存在なのである。

注文を受けると、流れるような手さばきで巻き寿司がどんどんできてゆく。定年を設けていないため入社40年以上という職人も多く、80歳まで現役だった人もいるそうだ。

注文を受けると、流れるような手さばきで巻き寿司がどんどんできてゆく。定年を設けていないため入社40年以上という職人も多く、80歳まで現役だった人もいるそうだ。

ざらめと濃口醤油で美しい飴色に炊き上げた栃木産の最高級かんぴょう。見るからに立派だ。江戸前の海苔は問屋に東京最小の“志乃多寿司サイズ”に切ってもらっている特注品。

ざらめと濃口醤油で美しい飴色に炊き上げた栃木産の最高級かんぴょう。見るからに立派だ。江戸前の海苔は問屋に東京最小の“志乃多寿司サイズ”に切ってもらっている特注品。

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ほどよい緊張感が漂うのは、すぐそばで職人たちがキリっとした佇まいで寿司を巻いているからか。カウンターはいわばステージ。皆さん、カウンターに入ると身が引き締まるそうだ。

右は1902年創業時の店構え。この時代から看板であるかんぴょう巻と稲荷寿司に加え、4代目の原田勝信さんが新たに生み出した茶巾寿司や押し寿司なども名作揃い。

右は1902年創業時の店構え。この時代から看板であるかんぴょう巻と稲荷寿司に加え、4代目の原田勝信さんが新たに生み出した茶巾寿司や押し寿司なども名作揃い。

●SHOP INFO

店名:神田志乃多寿司

住:東京都千代田区神田淡路町 2-2
TEL:03-3255-2525
営:7:30~18:00(地下のイートイン「新味匠 静智庵」は11:00~14:30)
休:火曜(祝日の場合は営業)
日持ち:当日
地方発送:不可
ほかに購入できる店:大丸東京店、新宿伊勢丹店
http://www.kanda-shinodasushi.co.jp/

●著者プロフィール

森本亮子

編集・ライター。『東京の手みやげ』(京阪神エルマガジン社)など、手みやげ関連のムック・書籍や雑誌企画を多く手がける。レストランや酒場、肉などの食をメインに、おいしいものと街と人をこよなく愛する関西人。錦糸町在住。