差し入れ以上、贈り物未満、アンダー1,500円のささやかな手みやげを“小みやげ(こみやげ)”と勝手に命名。気の置けない友人に、ちょっとしたお礼に。おいしくて財布に優しいうえに、もらった側もお返しいらずの気楽なアイテム。関西出身ライターが日常遣いする、テッパンの東京みやげをご紹介します。
ふるふる系とぽってり系、
どちらがお好み?


ほっと和んだり、「うまっ!」と叫んだり。おいしくて甘いものには人を幸せにする、すごい力がある。「まめ」のわらび餅と黒豆おはぎを食べた時、しみじみそう思った。
どちらも手づかみが似合う“普段の和菓子”。とぅるんとみずみずしいわらび餅は、きな粉が豊かに香り、沖縄産黒糖の滋味深い甘さの後、こし餡の上品で優しい余韻が残る。柔らかな喉ごしは、もはや飲み物のようだ。はたまた、おはぎは粒餡の旨みと黒豆のぷちぷちとした食感がたまらない。趣味で作っていたおはぎがきっかけで今に至った、いわば原点のお菓子。彼岸限定で置いていたが、ラブコールが多く通年作るようになったという人気者だ。
さて、実は有名な老舗和菓子店でも、餡は餡屋さんから仕入れていることが多い。それほど餡作りは難しく大変だと聞くが、大八木さんは自然な流れにより自家製餡で勝負して来た。「昔から餡を煮るのが好きで。砂糖の甘さじゃなくて、小豆の旨みが最後にじわ~っと残るように、小豆の顔色を見ながら煮ていきます。餡作りが一番おもしろいです」。
納得する“ドンピシャ”の味を出したいと改良を重ね、例えば同じこし餡を使う和菓子でも、わらび餅用はとろんとした食感に合わせて大福用よりもゆるめに調整するなど、細やかなこだわりがちりばめられている。まさに「まめ」の名に偽りなし、儲けではなくおいしいものをただひたすら作りたいという、和菓子へのひたむきな姿勢に頭が下がる。
また、同じ素材が季節のテーマに沿ってただ形を変えるのではなく、その時季ごとの素材をきちんと使うのも信条。「『栗蒸し羊羹はもうないの?』『今年も花びら餅を買いに来たよ』とか、ピンポイントに言ってもらえた時は、やっぱり嬉しいですねぇ」。
和菓子ごとにはっきりとした個性があるのも大きな魅力だ。わらび餅と黒米おはぎもそれぞれにまったく違うおいしさだから、どうにも優劣がつけられない。自分のイチオシと差し上げた人の一番が違ったりして、感想を言い合うのもまた楽しい。
趣味で作っていたおはぎやまんじゅうが評判を呼び、当時住んでいた静岡県三島に小さなカフェを開いた大八木さん。やがて「私の味が通用するのか、人が多い東京でやってみたい」と思うように(ちなみに当時は新宿、渋谷、銀座ぐらいにしか行ったことがなかったそうだ)。そして縁あって南青山の古民家に店を開いて12年が経った。
モダンな古民家目がけて訪れるのは、熱心な和菓子党や高感度なファッションに身を包んだ女性のみならず、お三時を求めるおじいさんや働く人などのご近所さんも多い。皆それぞれにお決まりがあるようだ。きらびやかな街の路地裏に地に足ついた日常があるのだと知る。
しみじみとした幸せをくれる和菓子を前に、さてあの人はどれにハマるだろう。



●SHOP INFO
店名:まめ
住:東京都港区南青山3-3-18
TEL:03-3479-2588
営:10:00~18:30(売り切れ仕舞い)
休:日、月、火曜(夏期休業あり)
日持ち:当日中(わらび餅と豆大福は翌日)
地方発送:不可
ほかに購入できる店:なし
http://mamemame.info/
●著者プロフィール
森本亮子
編集・ライター。『東京の手みやげ』(京阪神エルマガジン社)など、手みやげ関連のムック・書籍や雑誌企画を多く手がける。レストランや酒場、肉などの食をメインに、おいしいものと街と人をこよなく愛する関西人。錦糸町在住。