差し入れ以上、贈り物未満、アンダー1,500円のささやかな手みやげを“小みやげ(こみやげ)”と勝手に命名。気の置けない友人に、ちょっとしたお礼に。おいしくて財布に優しいうえに、もらった側もお返しいらずの気楽なアイテム。関西出身ライターが日常遣いする、テッパンの東京みやげをご紹介します。
旨い、大きい、安い!
錦糸町名物の太っちょたぬき
まずは我が街・錦糸町が誇る“小みやげ”からご紹介しよう。「ぽんぽこ!」と音が聞こえそうな、メタボなお腹とファニーフェイス。ねっ、思わず笑顔になるでしょう? 蓋を開けた瞬間、たぬきたちがずらりと並ぶ姿に歓声が上がる率100パーセントだ。
この恰幅の良さだもの、持つと1匹でもずしっと重い。香り良くしっとりとした薄い生地の中には、きりっと甘いが飽きのこないこし餡がみっちみちに詰まっている。「下町ですからね、“旨い、大きい、安い”じゃなきゃ怒られちゃうんです」と生まれも育ちも錦糸町の2代目・山田 昇社長は笑う。
愛らしいたぬきは昭和26年生まれ。創業当時、父である初代の実さんが錦糸町の名物になるものをと、当時浅草で大人気だった人形焼をヒントに作ったのが始まりだ。元は鶏卵卸問屋であり、現在も食品卸業を営んでいるため、素材の良さはお墨付き。
きめ細やかな薄力粉に濃厚でコクがある茨城県の奥久慈卵、きれいなキツネ色に仕上がるレンゲ蜂蜜を練り込む。薄力粉は極力抑え、卵を限界まで加えることで、ふんわり柔らかだが冷めても硬くならない生地になる。
そして、こし餡は北海道産の最上級小豆とアクが出にくい白ザラメをアルカリイオン水で炊き、後味がすっきりとした上品な仕上がりに。生地もあんこもバランスが良く飽きない味わいは、良い材料を惜しみなく使っていることに尽きる。
商売を広げると目が行き届かず、味が変わるというのが、先代の口癖だったそうだ。「身の丈の商売をする」という実直な家訓が、人形焼きの味にも表れていると思う。そんなたぬきのお値段は、1匹108円なり。“旨い、大きい、安い”の言葉にまさに偽りなしである。
日本茶はもちろん、牛乳やコーヒーとも相性抜群なのでお試しあれ。油で揚げたり、トーストしてもおいしいのだが……それについてはまた次回!
●SHOP INFO
店名:山田家
住:東京都墨田区江東橋3-8-11
TEL:03-3634-5599
営:9:00~20:00
休:元日
日持ち:4日
地方発送:可
ほかに購入できる店:錦糸町テルミナ店、江戸東京博物館 ミュージアムショップ、東京スカイツリータウン・ソラマチ 産業観光プラザ すみだ まち処
http://yamada8.com
●著者プロフィール
森本亮子
編集・ライター。『東京の手みやげ』(京阪神エルマガジン社)など、手みやげ関連のムック・書籍や雑誌企画を多く手がける。レストランや酒場、肉などの食をメインに、おいしいものと街と人をこよなく愛する関西人。錦糸町在住。