本当に旨い店はプロが知っている。人気焼鳥店主が愛する野方の寿司店『おたや』

異色の経歴が育む感性

カウンター6席のみ。長く飲食業界に身を置く久津和さんが「刺激を受ける」という寿司店『おたや』
カウンター6席のみ。長く飲食業界に身を置く久津和さんが「刺激を受ける」という寿司店『おたや』

東京・中野区野方に2023年春にオープンした寿司店『おたや』は、飲食店が軒を連ねる駅前のビル2階にある、カウンター6席だけのお店です。

店主の御旅屋さんは地元・野方出身の30歳。かつてはラガーマンとして活躍し、航空会社に勤務していたという異色の経歴の持ち主です。

いかにもラガーマンといった風情の店主・御旅屋さん
いかにもラガーマンといった風情の店主・御旅屋さん

「親族の飲食店を手伝うなか、コロナ禍で料理人が辞めたため私が料理を担当することになったのがこの仕事を始めたきっかけです。そのうち『お客様と対話しながら提供すること』に魅力を感じ、のめり込みました。銀座で半年ほど修業した後、当時27歳の私に物件を貸してくれたこの場所で、自分の店を持つことに決めたんです」(御旅屋さん)

素材と対話して生み出す一皿

わさびが添えられたあん肝。久津和さんが衝撃を受けた一皿
わさびが添えられたあん肝。久津和さんが衝撃を受けた一皿

料理はおまかせが軸。夜のコースは1万5,000円(税込)がメインラインで、季節の旬の魚を中心に、ツマミから握りへと流れるように構成されています。

「食材も電話やLINEで簡単に注文できる時代ですが、必ず毎朝、市場へ足を運んで、自分の目で確かめます。自分の好みがだんだんわかってくる。すると季節ごとにこの魚はどこ、この貝はどこ、というふうに最適な仕入先も見えてくるんです」(御旅屋さん)

また、素材本来の味を活かすため、余計な味付けはしない、と御旅屋さん。

「味付けは素材のよさを引き出すことに徹し、場合によっては別の食材と組み合わせて食べることで、より美味しくなるように工夫しています。いつも必ず自分で味見をして、その日の状態に応じた組み合わせを考えていますね」

例えば、脂がのったあん肝。一般的にはポン酢ともみじおろしで食べるのが定番ですが、御旅屋さんのあん肝はほんのり甘いのが特徴。

あえて柚子とわさび、少量の甘みを加えて提供しているのです。久津和さんも、この「甘いあん肝」に衝撃を受けたと言います。「あん肝にこんな食べ方があるのか、と驚きました。発想が自由ですごいし、何より旨いんです」(久津和さん)

タコも酒と水だけで茹で上げ、あえて塩も添えません。「そのままが一番、タコの香りが強いから」と御旅屋さんは笑いますが、それができるのは、仕入れる素材への絶対的な信頼があるからこそ。

1時間蒸すというアワビも余計な手を加えず●●を添える
1時間蒸すというアワビも余計な手を加えずアワビの肝を添える

単に高級ネタを並べるだけではなく、季節感や素材の個性を引き出す構成力こそがこの店の魅力。素材の鮮度はもちろん、その下ごしらえや塩加減、握りのタイミングに至るまで、御旅屋さんの職人としての丁寧な仕事ぶりが感じられます。

鮨の命であるシャリには「あきたこまち」を使用。米酢2種と赤酢2種をブレンドした合わせ酢を使い、砂糖を抑えたキリッとした味わいが特徴です。「最後まで食べ疲れないように」という配慮から、10貫以上の握りを軽やかに楽しませてくれます。

パサつきがちなカスゴも、御旅屋さんの手にかかればフワッとした食感に。赤酢が効いたシャリとよく合う
パサつきがちなカスゴも、御旅屋さんの手にかかればフワッとした食感に。赤酢が効いたシャリとよく合う

また、飲み物の提案も独創的です。久津和さんが驚いたのは、鮨にジンを合わせる提案。一見「攻めたセレクト」に思えますが、計算されたペアリングが鮨の美味しさを一段と引き立て、味わいに深い奥行きを与えます(アルコールの品揃えは時期によって異なります)。

日本酒は常時9種類。他にワインなども揃う
日本酒は常時9種類。他にワインなども揃う

型に縛られない御旅屋さんの感性によって生み出される、鮨の新たな魅力。カウンター越しに繰り広げられるその体験は、五感を揺さぶる冒険のようです。

鳥と魚、フィールドは違えど、一串、一貫に情熱を傾け、食の楽しみを更新し続ける両店。中野と野方、近しい場所で志をともにする二人のプロフェッショナルが、これからの東京の食をさらに面白くしてくれそうです。

次回は「会社員時代から食べることが大好き」と語る『おたや』店主の御旅屋さんが通う名店をご紹介します。

●SHOP INFO

おたや

住:東京都中野区野方5-3-1 野方ウィズ2F
TEL:03-5356-7316
営:12:00~14:00(L.O.13:30)、17:00~22:00(L.O.21:45)
休:水
https://www.instagram.com/otaya_sushi/

(取材・文◎安楽由紀子/撮影◎橋本真美)