トップシェフたちの特別メニューや佐賀の食材が集結した「食の祭典」を開催

会場は、佐賀県立博物館・美術館と、そこに隣接するカフェ。多彩なテーマでの「TALK SESSION」を目玉に、気鋭のシェフやパティシエによる特別メニューが味わえる「FOOD PARK」や、佐賀が誇る食材が集まる「MARCHE」がお祭り気分を盛り立てます。

まずは腹ごしらえ。モダンインディアンの人気店『Nirvana New York』がこの日のために考案したスパイスカレーと佐賀のクラフトビールをいただきます。洗練されたおいしさは、さすがの一言。


さらには、東南アジア各国の屋台料理に特化したレストランとして注目を集める『Night Market』のブースを発見。生春巻きをいただきました。なんと具材には佐賀特産の嬉野茶がたっぷり。ミャンマーの発酵茶サラダを思い起こさせる斬新なおいしさは感動ものです。

3人の人気シェフと語り合った【ローカルガストロノミー】の魅力
さあ、当イベントのメインコンテンツ「TALK SESSION」を観覧する準備は整いました。『食楽web』は、「TALK SESSION」の中でも、注目度急上昇中のシェフ3人が語り合う「【ローカルガストロノミー】食の未来を拓く、ローカルの力」に焦点を当てました。熱いトークが繰り広げられた内容をダイジェストでレポートします。
「ローカルガストロノミー」とは、地域の風土、歴史、文化を料理に表現すること。地域経済を活性化させ、持続可能な食環境の保全や伝統文化の継承につながる考え方として広がりつつあります。観光客にとっては、その土地の魅力を食を通じて深く体験でき、旅を豊かなものにできるメリットがあります。
登壇したのは現在、「ローカルガストロノミー」を第一線で実践する3人のシェフです。

田中シェフは「自分は小さい頃から何も考えずに行動するタイプ。そのせいでかなり遠回りして料理の世界に入ることになった」と自己紹介します。富山出身の田中シェフは20代をバックパッカーや建設作業員として過ごしました。イタリアで食べたステーキのおいしさが忘れられず、27歳で一念発起し料理人になることを決意したそうです。
「行けば何とかなるとイタリアへ行っそものの、語学力も調理技術も皆無だったので3ヶ月で帰国。すぐに就職情報誌で見つけた求人に応募し、六本木で働き始めました。10年働き、その間イタリアでの修行なども経て、かなり自信をつけていた頃に、富山でのシェフのオファーがあり、引き受けました。たまたま富山だっただけで、佐賀でも沖縄でも自分はどこでもやっていけると調子に乗っていたんです。ふたを開けてみると、オーナーとソリが合わず、わずか半年で店を離れました。仕方なく自分の店を富山で開業させたというのが事の真相です」(田中シェフ)
富山はローカルガストロノミーの舞台として積極的に選んだわけではないものの、地域に根差して料理するうちに、類まれな食の宝庫であることに自然と気付かされていったと言います。
2024年に移転しメニューを一新した「ひまわり食堂2」は、2025年のデスティネーションレストランオブザイヤーを受賞しました。

西シェフは広島県の出身。広島や東京、本場フランスでフランス料理の腕を磨いたあと、広島の名店「馳走 啐啄一十」で和食の技術も会得します。2018年に広島で独立開業しますが、日本全国はもとより世界の料理人から厚い支持を集める静岡県焼津市の鮮魚店「サスエ前田魚店」の魚に惚れ込み、2022年に焼津に移住し、「馳走 西健一」をオープン。2024年にデスティネーションレストランを受賞しました。
「サスエさんが扱う魚は、定置網からわざわざ1匹ずつタモで丁寧に掬い上げるところから始まり、漁港に設置した専用いけすでの管理、神経締めの技術、どれをとっても別次元の仕立てによって完璧なクオリティが確立されています。たとえばアジやサバなどの大衆魚が、既成概念を覆す食感、香り、水分で唯一無二の食材に変貌します。正直、知らなければよかったと思います。けれど、存在を知ってしまった以上、料理人としてこの魚を使わせていただき料理したいという欲求に抗うことができず、焼津での再出発を決めました。今なおサスエさんの魚には驚かされるばかりです」(西シェフ)

渡辺シェフは新潟県糸魚川市の兼業農家に生まれ育ちました。帝国ホテルで鉄板焼きやフランス料理のレストランで修業を積み、地元へUターン。「修業時代に雑誌で読んだフランスの有名シェフ、ミッシェル・ブラスのオーベルジュの記事に憧れ、自然の中で自分で野菜を育てて料理する店を開きたいと思いました」と話します。
イタリアンレストランの料理長などを経て、2023年に「mûrir」を独立開業。見渡す限りの田んぼの中にポツンと建つ一軒家レストランです。渡辺シェフは奥様の実家である米と果樹栽培を行う農園に入社。老朽化したビニルハウスが建っていた土地を活用し、6次産業化施設として、レストランへと大胆にリニューアルしたのです。
「みんなから絶対に失敗すると言われ、父親にも縁を切るとまで反対されましたが、10年願いを口に出し続ければ、口偏に十で“叶う”という信念で、多くの人たちの助けを借りながら店を形にしてきました」(渡辺シェフ)
2024年には新潟ガストロノミーアワード若手シェフ部門特別優秀賞を受賞し、早くも脚光を浴びています。
ぞれぞれが作るローカル

日本のローカルで思い思いのレストランを構えたシェフたちは、一体どんな料理を出しているのでしょうか?
理想の魚を追いかけて焼津にやってきた西シェフが作るのは、ほとんどが地元の魚で構成されたコースです。朝獲れの魚はランチに、夕獲れの魚はディナーに提供されます。スペシャリテの一つがパイ包み焼き。たとえば、シラスが揚がれば、生シラスを包み込み、飛び切りの鮮度を堪能できるレア状態で味わえるように焼き上げます。
「生のアジの身を大きいままお出しして、あえてナイフとフォークで切って召し上がっていただくことも。みなさん、その肉の厚みや弾力、身質、そして香りに驚かれます。サスエさんの魚の持ち味を生かす調理というのが前提です。実は、漁港での仕入れでは毎度、サスエさんと付き合いのある料理人たち同士でジャンケンをして、持ち帰る魚を決めています。勝った時はいいですが、負けるとろくに持ち帰れないので本当にヘコみます(笑)」(西シェフ)

「ひまわり食堂2」が立地する富山市は、間近に標高3000m級の立山連峰が迫り、目の前の富山湾は水深1000mまで一気に落ち込む高低差の激しい地形の中にあります。栄養分をたっぷり含んだ山水が流れ込む富山湾は「天然のいけす」と呼ばれ、対馬海流に乗って湾に入ってくる魚を滋味深く育みます。田中シェフは、富山湾が誇るブリや白エビ、ホタルイカなどを巧みに使い、オリジナルのイタリアンに仕上げます。
「深い海と高い山が近距離にあるのが富山の特徴。山菜も豊富で、野菜のおいしさも抜群です。種類は多くはないけれど、味の良いきのこもアイデアを刺激してくれます」(田中シェフ)
1万8,000円のコース1本のファインダイニングでありながら、街の食堂のような気さくな雰囲気。一見何の料理かわからない様相の皿も多いですが、一口運べば素材の味をぐっと感じられるのが魅力。個性派イタリアンと称される所以です。
海洋深層水を味わうアイスクリームを紹介した西シェフに、すかさず「パクっていいですか?」と聞くところも、田中シェフらしい茶目っ気です。

「mûrir」もまた相当な個性派です。富山湾に続く海岸線に面する糸魚川は、甘エビや紅ズワイガニをはじめとする魚介の宝庫。標高2400mの新潟焼山を擁し、山の幸も豊富な地です。同店では地元猟師から仕入れるイノシシやシカ、カモ、アナグマなどの上質なジビエもよく使います。しかし、主体とするのは農園で育てたお米と果物。コースは田んぼの雪解けから、田植え、米の収穫、精米、熟成までを、薪火焼きを駆使したフレンチの技法と器で表現しています。食楽webプロデューサーの大西は、マスクメロンのカラリと揚げたフリットの斬新なおいしさに感動した自身の体験を紹介しました。
そして何より、ゲストを驚かせるのは、フレンチのコースのメインが「ごはん」であること。自家栽培の2種類の米を、土鍋で炊いた白米と焼きおにぎりで食べ比べます。
「自分たちのアイデンティティはあくまでも米にあります。最高の米を育て、最高の状態で味わっていただきたい。これからもとことん追求していきます」(渡辺シェフ)

最後に、ローカルにあるレストランとして今後実現したいことは? というテーマが掲げられました。地域に向き合い、日々全力で料理をしている3人は答えに窮する様子を見せます。そこで、言葉を選びながら話す田中シェフのコメントが印象的でした。
「お客様を笑顔にして帰らせる。究極の目標はこれに尽きると思います。それをずっと続けていければ、次の目標が見つかるかもしれません」(田中シェフ)
西シェフと渡辺シェフも頷きます。
日本各地にローカルガストロノミーが生まれ、育っていく現状を象徴するようなトークセッションとなり、会場も温かい拍手に包まれました。
登壇後は、3人のシェフがトークセッションで語り足りなかったのか、互いの活動についてさらに質問し合う姿が見られました。そして、お互いの店へ食べに行きますねという約束も。それぞれローカルで自分の道を突き進む気鋭のシェフが集ったこの時間は、新たな化学変化を生みそうです。
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2日間で開催された食の祭典SAGAローカルガストロノミー会議。『食楽web』では、「【ローカルガストロノミー】食の未来を拓く、ローカルの力」というトークセッションを深堀りしましたが、5つのテーマが用意された各回は「美食地質学が紐解く、佐賀の食」や「九州の海から考える。海と食のサステナブルな関係」、「料理の世界を現場から変える、わたしたちの挑戦」、「器と料理の創造性に溢れた共創のかたち」と、どのセッションも食のプロフェッショナルが様々な視点から白熱のトークを展開し、学びのある有意義な時間になりました。
もちろん、マルシェやフードパークの充実ぶりも好評。おいしく食べ、語り合う。難しく考える必要はなく、そんな食への関心が、日本の食の未来を変える一歩になるのではないでしょうか?
来年の開催時には、旅行を兼ねてSAGAローカルガストロノミー会議を訪れてみてもらいたい。きっとおいしいの概念が変わる体験が待っています!





