
●秋になると、スーパーの売り場に並ぶ種なし柿。「刀根早生柿」という品種のルーツは、奈良県天理市にある果樹園にあります。三十六代目が守る『松田果樹園』にて、出会った刀根早生柿の圧倒的なおいしさと果実のジェラートを深掘りします。
奈良・天理市萱生町(かようちょう)。日本最古の道「山の辺の道」が生活道路として残る歴史ある土地で、三十六代続く『松田果樹園』は、全国に広まった「刀根早生柿(とねわせがき)」発祥の地として知られています。今回はその刀根早生柿と、同園で採れた果実を使ったジェラートを現地取材とともにご紹介します。
伊勢湾台風が生んだ奇跡の柿

「10月に出回る種なし柿、その発祥の地はここなんです」。そう語るのは、三十六代目の松田さん。刀根早生柿は、昭和34年の伊勢湾台風で1本の柿の木が根元から真っ二つに裂けたことから始まりました。

その木は今も原木として健在し、時期になればちゃんと実をつけます。面白いことに真っ二つに裂けた一方は通常通り11月に収穫が可能な状態になり、もう片方は3週間ほど早い10月に色づきます。
品種の名前である「刀根早生」は、突然変異が起きた柿の持ち主の名前「刀根」さんから取って名づけられました。
ただ、「刀根早生柿」は種なし柿のため、種で増やすことができず、突然変異した枝をほかの木に接ぎ木して増やしています。現在は、この地から全国へと広がっています。

『松田果樹園』では、果樹の育成に恵まれた地形を活かし、柿の他に、八朔やキウイフルーツも育てています。さらに、土づくりにもこだわりがあり、化学肥料や除草剤も極力使わず、ナギナタガヤを用いた草生栽培を導入しています。畑を労わるよう、やさしい手が加えられた土にはミミズが多く、春にはテントウムシが飛び交うほど健康的。ここで実った柿の味わい、とっても気になりますよね。
柿の概念が覆るほどの甘さとジューシーさ

さて、お待ちかねの「刀根早生柿」を実際にいただきました。まず驚くのは果肉感。あむっと直接かぶりつきたくなるほど果肉がしっかりしているのに、口の中でとろりと広がる甘みは濃厚。にもかかわらず後味はさらりとさわやかなのです。もう一切れ、もう一切れと、つい手が伸びてしまうほどです。
![ブランデーを果肉に直接垂らすと上品なデザートに[食楽web]](https://cdn.asagei.com/syokuraku/uploads/2025/11/20251128matsuda06.jpg)
渋抜きにも技術があり、収穫後は暖房をかけた屋内に入れ、炭酸ガスを98%まで満たした密閉した状態で24時間置き、さらに4~5日追熟。渋みが嘘のように抜けていき、その分、甘みが一層に際立つのだそうです。

あまりの衝撃に人生で初めて人に果物を贈りたいと思えたほどです。柿があまり得手じゃない人にこそ薦めたい、これまでの柿のイメージを覆す美味しさです。
果肉と砂糖で作る「ジェラート」も美味

『松田果樹園』では、利根早生柿や八朔、キウイなど、園で収穫した果実を使ったジェラートづくりにも力を入れています。刀根早生柿のジェラートは、果肉そのものの甘みが引き立つ濃厚でフレッシュな味。

八朔、みかん、キウイのフレーバーも人気で、どれも果肉の使用率が高く、余計な添加物を使わないので、素材の味をしっかり感じられる仕上がりです。
果物のプロが生むジェラートは、まさにご褒美です。こちらも自分用はもちろん、季節の贈り物としてぜひ覚えておきたい名品です。

(撮影・文◎亀井亜衣子)
●DATA
松田果樹園+
https://matsudakajuen-plus.com/








