食のプロも惚れる『木村硝子店』の美しいグラスに魅了されるワケとは?【木村武史代表インタビュー】

プロからの信頼がブランドの歴史を紡ぐ

 今年、創業115周年を迎えた『木村硝子店』。明治〜大正〜昭和〜平成〜令和と、まさに日本の近現代の食文化を彩ってきた存在といえます。木村硝子店が他のガラスメーカーと一線を画すのは、「自社工場を持たず、長年にわたって信頼のおける東京やヨーロッパの工場と良好な関係を築きながら、高品質なグラスを生み出し続けている」こと。

 そして、メインの顧客が「シェフやソムリエ、バーテンダーといった飲食のプロフェッショナルたち」であること。ゆえに、木村硝子店のグラスを使用していることが、上質なレストランやバーの証とさえ見なされています。

木村硝子店3代目 木村武史代表
木村硝子店3代目 木村武史代表

「この家業に生まれ、小学校低学年から父親のトラックに一緒に乗り、ガラス工場に行っていたんだ。そこで職人たちの手仕事を間近に見てきたので、いい工場や職人はすぐに分かる。商売として成り立たせるためには、マーケットが大きいプロを相手にした方がいい。ソムリエたちにはガラス好きも、僕の美意識に共感してくれる人も多い。割れたら追加注文してくれるしね(笑)」

直営店はある意味、「ファッションショー」を行う舞台

直営店の2階にある黒を基調としたプロ向けのショールーム。取り扱う全1800種類のグラスが美しく並ぶ様子は圧巻
直営店の2階にある黒を基調としたプロ向けのショールーム。取り扱う全1800種類のグラスが美しく並ぶ様子は圧巻
直営店の2階にある黒を基調としたプロ向けのショールーム。取り扱う全1800種類のグラスが美しく並ぶ様子は圧巻

 このように、木村硝子店は主に飲食店向けの業務用グラスを製造・販売しており、飲食店問屋を通じて全国の飲食店へ商品を卸しています。さらに、インテリアショップやセレクトショップなどへの卸業から本社近くに構えた直営店での小売業も手がけています。木村硝子店にとって、この直営店とはどんな存在なのでしょうか。

「ファッションブランドにおけるファッションショーとは何かを長年考え続けてきて、思いついたんだよ。ショーを行うことでブランドは自分たちのセンスを主張し、それによってブランドの価値を上げていくことができる。例えば、ショーをやることで500円のTシャツの価値を5000円に上げることもできるようになる。
うちで言うならば、ショーの舞台はこの直営店。百貨店などでは売れるものだけを並べて売れないものは排除していくけれど、ここには売れる売れないは関係なく、僕がいい、好きだと思うものだけを置いている。だから、並んでいる商品の周波数やリズムが統一されているでしょう? そこにお客様は引き込まれていくんだ」

2階のショールームとは雰囲気を変え、木の温もりがあふれる1階の直営店。オリジナルブランドのほか、国内外の作家とのコラボ商品など、時々で商品を入れ替え販売している
2階のショールームとは雰囲気を変え、木の温もりがあふれる1階の直営店。オリジナルブランドのほか、国内外の作家とのコラボ商品など、時々で商品を入れ替え販売している
2021年に始まった木村氏と長年親交のあるガラス作家、辻和美さんとのコラボ「ZOOMER+シリーズ」。辻さんがデザインしたスケッチを木村硝子店のインハウスデザイナーが東京のガラス工場、そして切子職人とタッグして仕上げた
2021年に始まった木村氏と長年親交のあるガラス作家、辻和美さんとのコラボ「ZOOMER+シリーズ」。辻さんがデザインしたスケッチを木村硝子店のインハウスデザイナーが東京のガラス工場、そして切子職人とタッグして仕上げた
写真提供:木村硝子店工芸工業デザイナー小松誠さんとの初コラボCOMシリーズ「クランプルオールド」が誕生したのは1980年。発売後、NY近代美術館(MOMA)から手紙が届き、永久コレクションの採用に至った。木村硝子店の名を世界に知らしめた記念すべき逸品
写真提供:木村硝子店工芸工業デザイナー小松誠さんとの初コラボCOMシリーズ「クランプルオールド」が誕生したのは1980年。発売後、NY近代美術館(MOMA)から手紙が届き、永久コレクションの採用に至った。木村硝子店の名を世界に知らしめた記念すべき逸品
写真提供:木村硝子店スウェーデンを代表する陶芸家でガラスデザイナーのインゲヤード・ローマンと木村さんとの20年近い友情を経て誕生したシリーズ
写真提供:木村硝子店スウェーデンを代表する陶芸家でガラスデザイナーのインゲヤード・ローマンと木村さんとの20年近い友情を経て誕生したシリーズ

売れるためのモノ作りはしない、自分の美意識に正直であれ

 木村さんは今もなお、木村硝子店のオリジナルブランドを牽引するデザイナーとして、日々デザイン制作や工場の職人とのモノづくりに真摯に取り組んでいます。デザイナーは他に、4代目のご子息、3人のインハウスデザイナーが在籍し活躍しています。

「スタッフたちは僕のことを専制君主だと思っているだろうね(笑)。すべてにおいて、僕の美意識を基準にしているから。ちなみに、この『木勝シリーズ』を手がけたデザイナーには、美大から新卒入社する採用段階から『デザインはさせないよ』と断言していたほど。でも3年ほど経つうちに『この人はセンスあるな』と思うようになって、デザインを任せたんだよ」

写真提供:木村硝子店「木勝」はインハウスデザイナー三枝静代さんによる切子のシリーズ。最初はアンティークグラスのリプロダクトを考えていたという木村さんだが、「コピーではなく、アンティークの雰囲気の新しいグラスを作りたい」という三枝さんの熱い想いから誕生した
写真提供:木村硝子店「木勝」はインハウスデザイナー三枝静代さんによる切子のシリーズ。最初はアンティークグラスのリプロダクトを考えていたという木村さんだが、「コピーではなく、アンティークの雰囲気の新しいグラスを作りたい」という三枝さんの熱い想いから誕生した

 ちなみに、「木勝シリーズ」をデザインするにあたり、木村さんがデザイナーに出した条件は「売れるためのモノ作りはしないこと」「自分の美意識に正直であること」だったという。

「僕は自分が好きなものじゃなきゃ売りたくない。20代で初めて自分でデザインしたグラスを製品化したときは、スケッチを描いてサンプルを作るのを何回も繰り返して、完成まで2年もかかった。どうってことのないワイングラスだったけれど、世界中でこれ以上のグラスはないと断言するところまで突き詰めてやり切った。その後はそれをサイズ違いで作ったり、ビールグラスにしたりして売れに売れたよ」

 では、木村さんの美意識とは? と問うと、「うまく説明や言葉にすることはできないな」と言います。きっと長年の経験と持って生まれた感覚による、まさにデザイナー木村武史の生き様そのものが美意識に違いありません。

「自分の中の美意識が固まっていたからこそ、そんなふうに展開できたし、同業者が真似しても、絶対に自分の美意識が共有できるグラスは売れると迷うことはなかったね」

器作家・イイホシユミコとの器シリーズも展開

 木村硝子店では器作家のイイホシユミコさんと組み、新たなシリーズも展開しています。これまでのガラス製品とは雰囲気を違え、磁器という新たな世界で木村硝子店の魅力が深まっています。

「磁器を始めた理由のひとつは、世界的に見てもガラスの製作を行う工場が減っていること。おまけに、うちが望むようなクオリティを実現できる工場は東京で2軒、ヨーロッパでも2〜3軒しかない。そろそろ焼きものもいいなと思っていたところで、仲良しのイイホシさんに相談したらWネームで引き受けてくれたんだ」

yumiko iihoshi porcelainと木村硝子店とのWネーム。飲食店向けとしても人気のシリーズに成長している。
yumiko iihoshi porcelainと木村硝子店とのWネーム。飲食店向けとしても人気のシリーズに成長している。

 ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。ここにテキストが入ります。

グラスは自由に楽しめばいい

 実は木村さんはそれほどお酒が強くなく、「ワインの味もよく分からないんだよ(笑)」と言います。グラスをデザインするときも、中に注ぐお酒についてはイメージすることはないそう。

「飲み方、味の感じ方は人それぞれ。だからグラスも同じ。自分の美意識だったり、好きだと感じるグラスを探して、自由に楽しめばいい。ワインの本場の生産者なんて、ワイングラスなんか持ってなくて、そのへんのコップでおいしいって飲んでいるからね(笑)。それくらい自由に、自分で気に入ったグラスを選んでほしいって思うよ」

(取材・文◎鈴木志野)

●SHOP INFO

木村硝子店 直営店

住:東京都文京区湯島3-10-4
TEL:03-3834-1784
営:12:00〜19:00
営業日:木、金、土曜
https://zizi.kimuraglass.jp/