20数年ぶりに訪れた『富士見堂』さん

“あのお煎餅屋さん”とは、東京・葛飾区青砥の地で1950年に創業した『富士見堂』です。実は筆者、子供のころ、買い物帰りに母に連れられてよく立ち寄ったお煎餅屋さんなのです。
葛飾は東京の下町ですが、粋な江戸文化というよりも、昭和の風情が色濃く残るエリアです。近くに玩具のタカラトミーの本社があることから“人生ゲームの街・青砥”と呼ばれ、近隣には「男はつらいよ」「こち亀」「キャプテン翼」等、昭和の激熱なキャラが勢揃いです。
そんな地域の昔ながらの住宅街に、『富士見堂』の工房があります。職人の技術、吟味された素材、米菓への想い、昭和の頃から変わらぬ佇まいに心がなごみます。
平成を経て、昭和への郷愁が心地よさに変わった令和の今、この街の老舗煎餅店から、大ヒット商品が生まれたのは偶然ではない気がします。
というわけで、今や生産が追い付かず入手困難な「あんこ天米」を求めて、開店前から並んできました。
懐かしくて新しい!甘くって塩っぱい!「あんこ天米」

現在、本店では「あんこ天米」は購入枚数の制限がありますが、開店前に並べば買えます。
実際、手にとってみて驚いたのは、和紙風の個包装のデザインがお洒落なこと。贈答用のニーズが高いのもうなずけます。

そして、看板に偽りなしのおいしさに納得です。「甘じょっぱさ」最高です!
人は甘いものを食べたら塩味が欲しくなり、塩味の後には甘味を欲する味覚の無限ループに陥るものですが、これは“打ち止めのおいしさ”です。
米粒の質感を残したザクッとした薄焼き煎餅に、しっとりとした餡を挟む、という発想が斬新。食感や味の対比、バランスが絶妙で楽しく幸せな気分にさせてくれます。

この味は、減農薬米を玄米のまま仕入れて自社で精米し、もち米、うるち米、黒米を使い分け、職人が手焼きをすることで米のうま味が最大限に引き出されているとのこと。まさに昔ながらの製法と、現代的な感性の融合といえます。
しかし、「甘じょっぱい」というシンプルな組み合わせが、こうも見事に人々の心をぐっと引き寄せて鷲掴みにするとは、なんとも不思議な気持ちになりますね。
木のぬくもりがやさしい店内

さて、本店の店内には季節限定の素材を使った様々な煎餅類が並んでいますが、いちばん目を引くのが、無数に並ぶ木製の抽斗(ひきだし)。抽斗の数だけ、自然の恵み、素材や味が入っているようで、ワクワクするのは私だけでしょうか。
甘じょっぱい記憶、甘じょっぱい人生、などと表現されるように、誰にとっても“甘じょっぱさ”はどこか懐かしく、おいしい味のコンビネーション。「あんこ天米」を食べながら、昭和の風情が残る葛飾・青砥の街を散策してみませんか?
●SHOP INFO
富士見堂
住:東京都葛飾区青戸3-25-7
TEL:03-3604-5648
営:9:00〜18:00
休:日曜
※新宿伊勢丹・グランスタ東京等でも販売
https://fujimidou.com/
●著者プロフィール
MEKOkana
世界の食文化をこよなく愛する1級フードアナリスト。