
●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介。今回は静岡県のラーメンシーンに迫ります。
静岡県はラーメンの実力店・人気店が全域に隙間なく存在する“ラーメン激戦県”。一般に静岡県は大きく〈東部〉、〈中部〉、〈西部〉の3つに分けられる。
具体的には、熱海市・三島市・沼津市・富士市・富士宮市などが〈東部〉、静岡市・焼津市・藤枝市・島田市などが〈中部〉、菊川市・掛川市・袋井市・磐田市・浜松市などが〈西部〉に属する。
以下、この3つのエリアごとのラーメンシーンの特徴と代表店舗をご紹介していこう。
東京・神奈川の影響がみられる東部のラーメン

関東圏から近い〈東部〉には、東京・神奈川のラーメンシーンの影響を強く受けた店が目立つ。例えば、10年以上にわたり〈東部〉の覇者として名声を轟かせた実力店『めん処 藤堂』 (三島市・2017年閉店)は、神奈川県の名店『中村屋』の出身だ。ちなみに、『藤堂』のDNAは、『麺屋 みのまる』(三島市 ※本店は神奈川県)や『麺や 一徳』(伊東市)といった人気店へと受け継がれている。
そのほか、魚介を駆使した淡麗ラーメンの『中華そば うお静』(熱海市・2023年開業)や、県内外のラーメンマニアの注目の的となっている『一条流中華そば 智颯』(三島市・2024年開業)は、共に都内からの移転組だ。神奈川が生んだ日本ラーメン界のエース『らぁ麺 飯田商店』も、沼津市に店舗を展開している。
〈東部〉の代表的なラーメン店は以下の通り。
・『雨風本舗』、『わんたんや』、『麺匠うえ田』(すべて熱海市)
・『福々亭』(伊東市)、『一匹の鯨』(伊豆の国市)
・『鈴福』、『めんりすと』、『味のなかむら』(すべて三島市)
・『らーめん専門やくみや』、『真 卓郎商店』、『春来軒』(すべて沼津市)
・『田島ラーメン』、『札幌ラーメン北道』(共に富士市)
・『麺屋ブルーズ』(富士宮市)
焼津・藤枝・島田の3市が激アツ。静岡中部のラーメン
〈中部〉には、古くから、藤枝市、焼津市、島田市を中心に“朝ラーメン”文化が存在するのが大きな特徴だ。1919年創業という老舗中の老舗『マルナカ』 (藤枝市志太)は、日本で初めて“朝ラーメン”の提供を始めた店で、同店の味を模した“志太系(マルナカ系)”と呼ばれるご当地麺が藤枝市志太エリアを中心に広がっている。
そしてここ10年ほどの間に、その“朝ラーメン”文化が地域全域へと急拡大。現在、〈中部〉のラーメン店の大半は「朝営業-中休み‐昼営業」の営業形態を採っており、夜営業を行うラーメン店が極めて少ない。
加えて〈中部〉は、ラーメンマニアからの注目度が高い実力店が、県内で最も多く揃うエリアでもある。
・『麺や厨』、『ABE’s』、『らぁ麺もち月』(共に静岡市)
・『麺屋 才蔵』、『麺行使 伊駄天』、『粋蓮華』、『麺創房LEO』(すべて焼津市)
・『ちっきん』、『麺屋 花枇』、『麺屋 八っすんば』(すべて藤枝市)
・『らぁ麺 めん奏心』、『麺屋燕』、『ラーメン ル・デッサン』(すべて島田市)
など、開業から10年、20年を経た錚々たる実力店と、ここ数年の間にオープンし、現在メキメキと頭角を現しつつある新進気鋭店とが切磋琢磨し合っている。
とりわけ、2025年現在、焼津市、藤枝市、島田市の3市は、ラーメン的に“激アツ”としか表現しようのない熱狂のさなかにあり、この3市を制せずして静岡のラーメンシーンは語れない状況だ。
西部のラーメン
〈西部〉は、〈中部〉と質的には似ている。〈中部〉から“朝ラーメン”文化がじわり浸透し、朝昼営業の店が急増した。なお、名店が集中する浜松市は静岡ラーメンシーンを語るうえで決して外すことができない“最重点攻略エリア”だ。代表的なラーメン店は以下の通り。
・『麺屋さすけ』(掛川市)
・『menya787』、『ラーメンこころ』(共に菊川市)
・『麺屋 破天荒』、『麵や 向日葵』、『らーめんユタカ』(すべて袋井市)
・『いこい』(磐田市)
・『麺屋 龍壽』、『僕家のらーめん おえかき』、『浜田山』、『日歩未』、『青空キッド零壱』、『AMORE』、『荒野のラーメン』、『つけめん京蔵』、『浅草軒分店』(すべて浜松市)
以上、見てきたとおり静岡県は東西155kmにわたり、少なく見積もっても数十軒もの必訪店が点在する。他の県にも増して頻繁かつ定期的に足を運び、腰を据えて攻略を進めようとする強固な意志がなければ、全容把握は難しいだろう。