
一次審査が終了。最終審査へ進んだのは19名!

ぶどう、桃、いちご、りんご、すもも、柿、ブルーベリー。さまざまなフルーツが採れることから「フルーツ王国」と呼ばれる山梨県。
そんな山梨県のフルーツの魅力と、そのフルーツを活かした多彩なスイーツをより広く伝えるため、そして山梨の未来を背負う若手パティシエ育成のために、このほど「やまなしスイーツコンテスト2024」が開催されました。
県内初の試みとなるこのスイーツコンテスト。生菓子スイーツ部門、加工スイーツ部門、ワインに合うスイーツ部門の3部門に計83作品の応募があり、厳正な審査の結果、3部門合計19作品が最終審査に進みました。
取材は最終審査の数日前。
一次審査を通過し、最終審査へと駒を進めた2名のパティシエに密着し、その様子を追いかけました。

それぞれの思いを胸にコンテストに望む挑戦者たち
今回密着した2名の若きパティシエ、ひとりは山梨県韮崎市で働く高見澤美結さん、ひとりは東京・六本木の岩男和将さん。働く場所は違えども、山梨県産のフルーツに対する思いは強いふたり。どちらもレストランで働きながら、機会を見つけては生産者の元を訪ね、日々フルーツと向き合います。
果たして、ふたりはどんな思いでコンテストに応募し、どんなスイーツをつくりあげたのでしょうか?
「大好きな故郷の魅力を、もっと知ってもらいたい」―高見澤美結さん

高見澤美結さんは、山梨県韮崎市にある『さくら茶屋 la Passion』のパティシエ。同店はシェフ小林裕一さんが率いる人気の洋食店で、自家農園をはじめとした地元の素材を、欧州で腕を磨いた小林シェフが調理する地産地消がコンセプトです。
幼い頃からお菓子作りが好きだった高見澤さんは調理師学校を卒業後に八ヶ岳の名門ホテルへ。シェフパティシエまで務めた後に、「より地元素材を活かし、地元を輝かせている店で働きたい」と小林シェフのもとで働き始めました。
「山梨にいると、いろいろな生産者の方とお会いする機会が多くあります。熱意ある生産者の方々が大切に育ててきたフルーツを使うからには、素材の風味や香りを大切にしたお菓子づくりが必要。そうして作ったお菓子で、故郷を盛り上げたい」と思いを語る高見澤さん。
そんな誇りと使命を胸に、今回のコンテストに応募しました。


ワインと合わせて完成するひとしずくのチョコレート
高見澤さんが選んだのは、店でのペアリングでも慣れ親しんだ「ワインに合うスイーツ部門」。お菓子単体で完結するのではなく、ワイン自体の風味が構成要素をなして完成する味を目指しました。
試行錯誤の末に完成した「赤ワインのしずく」は滑らかなしずくの形をしたチョコレート。カカオ65%の中に、ドライにした巨峰のワイン漬けと赤ワインのシロップ。巨峰は皮がしっかりして果実味の強いことから選んだといいます。さらに全体のバランスを見て調整したカカオ51%の赤ワインガナッシュをあわせます。
想定したペアリングのワインは、「ルバイヤート マスカット・ベーリーA 樽貯蔵」。熟したベリーのニュアンスと樽とバニラの風味が、苦みを抑えたガナッシュと調和します。
チョコレートはシンプルですが、テンパリングや温度管理によって口溶けや艶、味わいに大きな違いが出るスイーツ。見事な艶と優しい口溶けに、に高見澤さんのこだわりと技術が詰まっています。
「フルーツとワインという山梨のふたつの自慢を、より多くの方に知ってもらいたい」。高見澤さんの言葉には、地元への深い愛情と職人としての誇りが満ちていました。


「食の未来のためにレストランができること」。都心で働くパティシエが胸に秘めた思い。

岩男和将さんは、フレンチの技法で日本の厳選食材を味わう六本木のイノベーティブフレンチ『SeRieUX?』のシェフパティシエ。食材を探し生産者の元を巡るのが日課である岩男さんが常々目にするのは、味は良いのに形が悪い、傷があるなどの理由で廃棄されてしまう、いわゆる“ハネモノ”の存在でした。
「形は悪くても味が良いフルーツの存在を伝えることで、少しでもフードロスの削減に貢献できる。それがレストランという“発信地”で働いている意義」と岩男さん。今回のコンテストへの応募のきっかけも、食の未来に貢献したいという思いからでした。
ケーキ屋で働いていた母について回り、幼い頃からケーキに親しんでいた岩男さん。食の未来に対する強い思いは、自身が大好きなスイーツへのいわば恩返しのようなものかもしれません。

シンプルな中に技と思いが詰まった焼き菓子
食、そしてフルーツの未来を考えるとき、浮かぶ地は山梨県です。
「気づいたら山梨産というほど慣れ親しんだ存在。品種、ブランド力、品質、どれをとってもハイクオリティ。都内から近いという点も、産地に何度も足を運ぶ僕にとって大切なポイントです」と岩男さん。
応募作品を見てみましょう。
「素材の持ち味を活かすシンプルなスイーツが多い」と自身のクリエイションを分析する岩男さん。素材となるフルーツの特徴を見極め、それを軸にその魅力を高めるパーツを組み立てていくことが岩男さんのスイーツ考案の手法。
「Le Lien(ルリアン)」と名付けた今回の応募作品もシンプルな焼き菓子ですが、その制作工程を見ていると、さまざまな技と工夫が織り込まれていることがわかります。

りんごは、香りが強い山梨県産サンフジ。香りの良い皮も一緒に使います。サステナブルをテーマにしているため、形は残さずピューレやジュレに。丁寧に香りを引き出しているため、焼き菓子でありながら口にするとフレッシュなりんごを齧ったような爽やかさが広がります。
甘さを抑えたバタークリーム、シナモンの香りを加えたクッキー生地、キャラメルと合わせるピューレなど、細部にひと手間、ひと工夫加えることでシンプルでありながら奥深い味わいに仕上がっています。


コンテストが紡いだ2つの物語。そして最終審査へ。

異なる哲学を持ちながら、ふたりに共通していたのはフルーツや山梨の未来を描く視点。スイーツという形で昇華されたふたりの思いは、山梨の恵みを活かしながら、それぞれの思いを形にしていました。
ふたりへの取材の数日後となった2025年3月8日。
山梨県立博物館の敷地内にて、最終審査が行われました。審査委員長は「銀座ウエスト青山ガーデン」シェフ、「葡萄屋kofu」顧問を務めるスイーツ界の重鎮・金子博文シェフ。厳正な審査の結果、生菓子スイーツ部門は、早坂海玖さんの「春よ恋」、加工スイーツ部門は宮本英哲さんの「ケーク柚子ショコラ」、ワインに合うスイーツ部門は横田大樹さんの「枯露柿とゴルゴンゾーラのアイアシェッケ」がそれぞれ最優秀賞に選ばれました。


「みなさんの思いや考え方が伝わってくる作品ばかりで感激しました」とコンテストを振り返った金子博文シェフ。
金子博文シェフ自身も山梨を舞台に活躍するだけに、今回のコンテストは参加したすべてのパティシエたちとともにさらに山梨を盛り上げていく機会となることでしょう。
最終審査の会場で自身のスイーツを披露し、思いを伝えた参加者たち。その思いを受け止めた審査委員と訪れた多くの観客。その盛り上がりを見るに、このコンテストがただの技を競う場ではなく、素材への敬意、生産者との対話、未来への思いが交差する機会となったことが窺えます。
「やまなしスイーツコンテスト」の歴史は、一歩目を踏み出したばかり。いつの日かこのコンテンストがスイーツ界の大きな潮流を生む日が来るのかもしれません。

●受賞した成田博史シェフの記事はこちら
【熱きパティシエの挑戦】フルーツ王国・山梨の甘い未来をつくる「やまなしスイーツコンテスト2024」密着取材!
https://www.syokuraku-web.com/column/138075/
※やまなしの美酒美食をもっと体験しよう!

●DATA
やまなしスイーツコンテスト
https://www.porta-y.jp/feature/sweets-contest
ハイクオリティ山梨 若手パティシエ育成プログラム
https://hq.pref.yamanashi.jp/article/a02734/
やまなしスイーツプロジェクトforパティシエ
さくら茶屋la Passion
住:山梨県韮崎市藤井町南下條171-1
営:11:00〜22:00
休:月曜(祝日の場合は翌日休)
SeRieUX?
住:東京都港区六本木7-4-4
営:12:00〜15:00/18:00〜22:00
休:水曜、火曜・木曜のランチ