ラーメン官僚が推す古都・奈良県の本当にウマい店。奈良最強の秘境店『ラーメン河』

奈良県が誇る最強格の“秘境店” 『ラーメン河』とは?

 吉野郡吉野町の緑深き山中に、ポツンと佇む名店がある。それが『ラーメン河』。奈良県のラーメン店の中でも指折りの、いわゆる“秘境店”だ。爽やかな水音を奏でながら流れる吉野川上流部を眼前に望む、およそラーメン店とは思えないほど風光明媚なロケーションが、訪問客を出迎える。

 日本全国には、市街地から隔絶された場所にあり、公共交通機関でのアクセスが困難な場所に店舗を構える“秘境店”がいくつか存在する。例えば、東京都・奥多摩町の『のんきや』、大分県・佐伯市の『二代目ラーメンカヨ』、宮城県・蔵王町の『中華亭分店』、山口県・周防大島町の『たちばなや食堂』、千葉県・長南町の『らーめん八平』などが、私が知る典型的な秘境店だが、『ラーメン河』の“秘境度”は、ここで挙げた店舗と比べてもかなり高い。

近鉄吉野線・吉野駅より約5km。クルマかバイクで訪れるのが確実
近鉄吉野線・吉野駅より約5km。バスもあるが、クルマかバイクで訪れるのが確実

 そんな世俗とは遠く離れた立地にありながら、『ラーメン河』は、奈良県屈指の超人気店としての顔も持ち合わせるのだから、驚きだ。営業時間は、朝の10時から、1日50杯用意する「ラーメン」が完売するまで。

 公式の営業時間は12時までとなっているが、それはもはや名目と化している。特に土日は、10時の開店前に売り切れてしまうことも日常茶飯事。『ラーメン河』は記帳制を採用しており、記名が1日の提供杯数分に到達すると、自ずと「売り切れ終了」になってしまうのだ。私が同店を訪れた時も、午前7時半に記帳を済ませた時点ですでに10名もの記名があり、10時過ぎにお店を訪れた人は、ことごとく「営業終了宣告」を受けていた。

 つまり、9時台、いや、他の客の来訪時間の上振れを考慮すれば、8時台には記帳台への記名を済ませておかなければ、『河』の1杯にありつける保証はないということだ。同店の席数は9席で、しかも、ラーメンの提供に一定の時間がかかることを考え合わせれば、8時台や9時台の記名では、1時間以上の待ち時間が発生することは確実。週末にスムーズにラーメンを食べるには、7時台での記名がマストだと言えるだろう。

店主が一人で切り盛りする。コロナ禍以降、同店は屋内のイートスペースを閉め、吉野川の渓流を眼下に望む屋外席のみを開放している
店主が一人で切り盛りする。コロナ禍以降、同店は屋内のイートスペースを閉め、吉野川の渓流を眼下に望む屋外席のみを開放している

 さて、2024年11月現在、同店が提供するのは、「ラーメン」と「まぐろ丼」の2品のみ。店主は、『ラーメン河』を開業する前、大阪府内で寿司屋を営んでいたという経歴の持ち主。その経験を活かして作られる、本格的な酢飯を用いた「まぐろ丼」も、飛ぶように売れる人気メニューだ。「まぐろ丼」の1日提供杯数は、「ラーメン」よりもさらに少ない。お客さんのほとんどは店主の経歴を予習済みで、「ラーメンまぐろ丼セット」を注文するため、「まぐろ丼」はあっという間に完売してしまう。

 着席してから約10分。店主自らの手により眼前へと供される「ラーメン」は、秘境店のそれとは思えないほどハイレベルな塩ラーメンだ。

ラーメン
ラーメン

 鶏ガラを軸に少量の豚足を加えることでコクを付与したスープは、トッピングの白菜のナチュラルな甘みがしっとり溶け出し、ひと口目から、鳥肌が立つほど上質なうま味が味覚中枢を強襲。塩ダレと動物系素材の風味が舌上で一体化し、より高次元なうま味を生む様も、この上なくドラマチックだ。もちろん、白菜、チャーシューなどのトッピングも手抜かりなし。それぞれに下味がしっかり施されており、最後まで、箸とレンゲを持つ手が止まることはない。

 一方の名物「まぐろ丼」も、専門店顔負けの完成度を誇る逸品。フルポーションのようなボリューム感で、酢飯の上に店主自ら市場で仕入れたマグロの漬けが大量に搭載されている。

まぐろ丼[食楽web]
まぐろ丼[食楽web]

 吉野川のせせらぎをBGMにしながら夢中になって食べ進めているうちに、気が付けば、ラーメンもまぐろ丼もペロリと平らげてしまっていた。

 この内容の充実ぶりは、単なる“秘境店”のそれではない。“実”も兼ね備えた、奈良県最強格の実力店だ。

●SHOP INFO

店名:ラーメン河

住:奈良県吉野郡吉野町菜摘470
TEL:0746-32-8384
営:10:00〜12:00(売り切れ次第終了)
休:水・木

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。