●群馬県伊香保温泉近くの名物料理「水沢うどん」の美味しさの秘密を調査。元祖と言われる店『田丸屋』で実際に食べてきた!
全国有数の小麦の産地である群馬県は、冬の日照時間が長く、「からっ風」が強く吹き上がる乾燥した土壌。水はけのよい土は、小麦の栽培に適していて、古くから二毛作が行われてきました。良質な小麦が採れることから、小麦を使った料理が多く粉物文化が盛んです。
特にうどんは、桐生の「ひもかわ」、館林の「館林うどん」、旬の野菜を煮込んだ「おっきりこみ」など、地域によって進化を遂げ、郷土食として愛されています。伊香保温泉にほど近い伊香保町水沢でも「水沢うどん」が名物。県内でいくつもあるうどんの中で、日本3大うどんのひとつと言われるほど人気の「水沢うどん」。 他の地域のうどんとの違いは? その謎を探るため、「水沢うどん」の元祖と言われる『田丸屋』に行ってみました。
『田丸屋』は、創業441年を迎える、現在は20代目という老舗の名店です。外観は城や神社仏閣などで多く見られる屋根の「入母屋造り」で、日本建築の伝統的な建築美を感じます。入口からすぐには吹き抜けがあって、高級感たっぷり。メインダイニングのテーブル席のほか4つの個室もあって、ゆっくりと食事が楽しめます。
元祖のお店で絶品「水沢うどん」を堪能する!
さあ、待ちに待った「水沢うどん」。まずは「もりうどん」をいただきます。水沢うどんといえばこれ、三角のザルに乗った冷たいうどんが基本です。つゆは、醤油と胡麻の2種類を用意する店が大半。こちら『田丸屋』では、醤油のつゆには利尻昆布、羅臼昆布などを使い分け、熟成された本枯れの鰹節、鮪節を加えて出汁をとります。さっぱりとしたコクが美味しい胡麻つゆには、数種類の野菜の絞りつゆを加え、胡麻の風味が香ります。
『田丸屋』でいちばん人気は「ほてい様福膳」。二色つゆのもりうどんに、季節の天ぷらやお惣菜、カナッペなど月替わりの小鉢が3点ついた、満足度の高い豪華な御膳です。ほかにも、きのこや野菜のだしで作る「精進御膳」(2420円)や「玉子焼き」(小サイズ1760円)、「和豚もち豚の角煮」(1110円)など単品料理も充実、水沢うどんを中心に多彩なメニューが味わえます。
伝統を守りながらも攻める老舗の新メニュー
『田丸屋』には、他の水沢うどん店にはない、オリジナルのメニューもたくさんあります。
「今でこそうどんは白い物、しかし地粉で作った昔のうどんは茶色かったのです。」と話す、20代目の女将大河原さん。
うどん作りの原点に戻り、国産小麦を自家製粉、全粒粉で作る「古伝喜利麦(こでんきりむぎ)」。こちらはなんと、天然塩とオリーブオイルでいただきます。水沢の水と天然塩のみが加えられ、こねて熟成させた麺のその味とは。
茶色のうどんにまずは塩をかけていただきます。殻まで粉砕する全粒粉は香りが押し寄せ、ブワッと小麦本来の味が楽しめます。さらにオリーブオイルをかけて食べてみると、まるでイタリアンのような味わいに。これは面白い!
こんなうどんの食べ方もあるのだと驚きです。伝統の味と技術を継承する老舗の『田丸屋』は、さらに小麦本来の美味しさを伝えたいと、うどんの枠に留まらず、店の向かいに『cafeのはな』をオープン。こちらでは厳選した小麦粉で作るワッフルやケーキが楽しめます。
「水沢うどん」の旨さの秘密は良質な水にあった!
ここまで、「水沢うどん」を余すとこなく堪能してきました。ここまで美味しいうどんは、どうやって作られているのか? 厨房へお邪魔して秘密を探ってみました。
「水沢うどん」は、厳選した小麦粉と清らかな水、塩だけで丹念に鍛えた麺が特徴です。『田丸屋』では、昔ながらの伝統と技法を用いて丁寧に作られています。国産の小麦粉100%で、その時々により2、3種類をブレンド。長時間熟成させた多加水麺は、滑らかな舌触りでありながら、しっかりとしたコシがあります。直径は約3mmの中太麺で、透明感のある艶やかな美しいうどんです。
パラパラとほぐしながら麺を投入し、大きな窯で対流させながら茹でること15分、釜から挙げられたうどんは一気に冷水で締めます。
「水沢うどんが美味しいのは、水沢の清らかな水を使っているからなんです。」と、料理長の水谷さん。
茹でたてのうどんは熱く、水が均等に回るように身体全体を使って大きくかき混ぜ、何度も水を変えていきます。美味しいうどんを作るための重労働ぶりに驚きました。
「田丸屋のうどんには、薬味をつけていません。小麦そのままの味と風味をお楽しみください。」と話す大河原さん。
昔ながらの製法で、コシがあり透明感のある、艶やかな美しい水沢うどんが食べられる『田丸屋』。伝統を守りながらも小麦の新たな食べ方を提案する、攻める老舗の名店にこれからも目が離せません。
まとめ
良質な小麦と清らかな水で作られる「水沢うどん」。水沢の豊かな土壌で育まれた、ほかの地域にはない味わいが魅力です。伊香保温泉や草津温泉に出かけるならば、ぜひ寄りたい! イチオシの郷土食です。
●SHOP INFO
店名:田丸屋
住:群馬県渋川市伊香保町水沢206-1
TEL:0279-72-3019
営:9:00~15:00 ※売り切れ次第終了
休:水曜
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tamaruya/index.html
●著者プロフィール
矢巻美穂(やまき・みほ)
内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国などのフォトガイドブックを執筆。近著は『東京で台湾さんぽ』(イカロス出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。「田丸屋」動画も絶賛公開中!