100年の時を経て東京・港区に蘇った「東京港醸造」の日本酒が旨い!

昔はお江戸、今東京。大都会のど真ん中に蘇った酒蔵とは?
食楽web

 東京は港区芝、23区のほぼど真ん中。そんな場所に『東京港(みなと)醸造』、屋号を『若松屋』と称する日本酒の造り酒屋がある。と言っても、何しろ都会のイメージが強い港区。にわかには信じてもらえないかもしれない。掲げられた看板にこそ『東京 芝の酒 醸造元』と記されているが、一見すると4階建ての小さなビル。多くの人が想像する伝統的な酒蔵とは全く違う外見だ。とてもここで日本酒造りが行われているようには思えないが……。

 確かに、現行の蔵の開業は2011年と新しい。そして当初はリキュールやどぶろくをメインに製造していたが、2016年7月に待望の清酒製造免許を取得。その年から日本酒の醸造を開始した、れっきとした酒蔵なのである。

 こう書くと「新興の酒蔵?」と感じるかもしれないが、実は若松屋自体の歴史は古い。東京港醸造は今から約200年前の文化9(1812)年に、この地で創業した造り酒屋が原点だ。それが当主の他界と酒税法の改正により、明治44(1911)年に約100年続いた家業に終止符を打ったのだという。それからさらに約100年後の平成の世、現当主の7代目、そして息子の8代目親子が酒造業の復活を目指して再興させたのである。

東京港醸造の杜氏を務める寺澤善実さん。日本酒だけでなく、リキュールやどぶろくなど、意欲的な酒を造り出している。
東京港醸造の杜氏を務める寺澤善実さん。日本酒だけでなく、リキュールやどぶろくなど、意欲的な酒を造り出している。

 特徴は、江戸初期まで行われていた、盛夏を除いて1年中酒を造る『四季醸造』を実践していることだ。通常、いわゆる地酒の醸造は、ほとんどが秋に収穫した酒米を冬の寒い間に仕込み、搾る。気温が高くなると発酵のコントロールが難しく、品質にバラつきが出て、ともすると製品に値しない酒になってしまうからだ。四季醸造が江戸中期頃から徐々に廃れてしまったのは、そういった背景も理由のひとつだ。

 しかし東京港醸造は“小さな4階建ビル”という、普通であればデメリットになる条件を逆手に取って活用し、四季醸造に挑んでいる。つまり、小規模なので醸造所内の温度を徹底管理できる。それで1年を通して品質の高い酒を醸造可能にしているのだ。というわけで、ここではいつでも新鮮、搾りたての清酒を味わえるのだ。

 今の時期で言えば“夏酒”だ。普通、夏に飲む酒と言えばビールを想像するが、キリリと冷やした冷酒もまた美味。通常、夏酒として売り出されている清酒のほとんどは、冬に仕込んだものを貯蔵して出荷している。実際、それらの酒も旨い。しかし、夏酒というからには、夏に仕込んで夏に搾った新鮮なものを飲みたいではないか。東京港醸造の清酒は、それが可能なのだ。

江戸開城【夏酒】(720ml)2000円(税抜)
江戸開城【夏酒】(720ml)2000円(税抜)

 しかも、東京港醸造では『直汲み』という方法で瓶詰めするため、一層、酒の出来たての味が保たれるのだ。

 『直汲み』とは何か。本来、日本酒の上槽(搾り)は、亀口(垂れ口)と言われる小型の容器に受けて、ある程度溜まったものをポンプでタンクへ移動させる。すると、どうしても亀口とタンクでの酸化が避けられない。搾りたての新鮮さが失われてしまうのだ。そこで上槽機から垂れてきた搾りたての清酒を直接、一升瓶に詰めて究極の品質保護を行うことで、味の劣化の原因となる酸化を防いでいるのである。

 そうして出来上がったのが、東京港醸造の『江戸開城』【夏酒】だ。一口含むと、舌の上にはほのかな酸味と同時に、するりと喉へ逃げるような爽やかな日本酒の旨みを感じることができる。後味もスッキリしているし、鼻腔に巡る香りも丸みがあってふくよかだ。この夏、一度試してみてはどうだろうか。

(取材・文◎松尾直俊)

●INFORMATION

東京港醸造(本店/醸造所) 外観

店名:東京港醸造(本店/醸造所)

住:東京都港区芝4-7-10
TEL:03-3451-2626 FAX:03-6451-3572
営:月~金11:00~19:00、土11:00~17:00
休:日
URL:http://tokyoportbrewery.wkmty.com/
本店での直接購入のほか、ホームページやFAXで銀行振込か代引きで注文可能。別途、クール便料金、代引き手数料、送料(地域によって異なるので注意)が必要。
*時期によっては「朝搾った清酒をその日のうちに」入手できる『朝搾り』を実施することがある。HPや電話にて問い合わせを。