2軒目は、日本一の燗酒が飲める居酒屋『善知鳥』

喉を潤した後は、日本一の燗酒が飲めるとして全国的に知られる居酒屋『善知鳥』へ。早くから予約を入れて訪問を楽しみにする人もいる人気店だが、「今、空いてます?」と電話を入れて気軽に寄れるのが、ご近所の強みだ。
主人の今 悟さんがつける燗酒は、吟醸からにごり、生酒まで酒類を問わず。「燗は酒が持つ本質を引き出す技」との言葉どおり、冷酒とは異なる表情を見せるのが面白い。さらにはタテ、ヨコ、ナナメと徳利を回転させる術により、味わいは多彩に花開く。たとえば今さんの故郷である青森の銘酒「豊盃」を先日いただいた際には、冷酒で魅了された米のふくらみが燗で引き締まり、元服したての若武者のような凛々しさが感じられた。

肴もすこぶる美味なり。なかでも「赤ホヤの塩辛」ほか自家製の珍味は、何度体験しても延髄に響く衝撃の旨さ。干し貝柱だけでダシを取るおでんもまた、すばらしい。自制がきかず、にんまりしながら酒も箸も進んでしまう。

なににも増して、今なお現役で鳴るダイヤル式の電話など店内を彩るアンティーク同様、昭和遺産的頑固一徹の今さんの人柄に多くの人が惚れ、酔い、ついつい飲み過ぎてしまうのではないか……。などと生意気なことが言えるのは、わたくしの中学時代の部活の先輩だから。ある方を偲んで閉店後に献杯した際、店の一升瓶をほとんど空にし、翌日の営業に支障を生じさせたダメな後輩である。