まずは、パブ『The Hole in The Wall』へ

1年の半分は、国内外を旅して歩く。戻れば、引きこもりの原稿地獄。東京パトロールはおのずとおろそかになるが、わたくしの地元・西荻窪の飲み屋は、はるばる遠方から訪れる人も多い名店揃い。徒歩5分圏内で、美味美酒をきちんと補給できるのが嬉しい。

住宅街にぽつん、ぽつんといい店が潜むのもこの街の良さ。2019年春にオープンしたパブ『The Hole in The Wall』もそのひとつだ。都心に数多あるパブがロンドンと似た賑わいなのに対し、この店はイギリスの田舎のパブに似た静かでゆるやかな時間が流れているのが魅力。初めて訪れた際、ハリー・ポッターやアーサー王の面影をたどりつつ立ち寄った英国各地のパブを思い出し、涙が出そうになった。店を営むデイビッド・カマイケルさん&真紀さん夫妻によれば、わたくしに限らず「懐かしい」との思いを抱く人は少なくないとのこと。

日本ではほとんど見ない、「ポーク・スクラッチ」があるのも、感動だった。豚の脂身を揚げたものだが、サクサク軽い食感で罪の意識を薄めるキケンなスナック。これが、ビールと実に合う。定番のギネスや常時入れ替わる「ゲストビール」のグラスは、すぐに空になるのだ。

彼の地のパブではお馴染みのパイもまた充実の揃えな上、すこぶる旨い。しかも大好物であるマッシュポテトが、小躍りするほど絶品。真紀さん曰く「自分でもびっくりするほど、高カロリーな材料を使う」らしいが、気にはするまい、幸せならば。