
最近、「ヤドカリー」と呼ばれる間借りスタイルのカレー屋さんが東京でもチラホラ登場している。昨年12月に東京・東高円寺にオープンしたばかりのカレー屋さんもズバリ『平日昼だけ』という店名の間借りスタイル。
しかも、驚きなのがその間借り先。なんと、アンティーク雑貨屋の倉庫&作業場を借りているのだ。だから、びっくりするような数の骨董品に囲まれながら、アンニュイな雰囲気で真っ昼間に和風カレーを味わうことになる。そんな変態系「ヤドカリー」屋さんは、不思議な空気が実は心地いいのだが、まず入り口からしてかなり敷居が高いので、そこからご紹介!

こちらが店先。アンティークの玄関先に照明がいくつもぶらさがっていたり、不思議なオブジェなどが置かれていたりして、「モノを捨てられない人のお屋敷?」と思う人もいるかも。看板に気づき、ここがカレー屋だとわかっても、いぶかしさは拭えない。入口からして異様な空気がプンプン漂うからだ。

でも、ためらうことなかれ。入店してみれば、店内の、壁、棚、そして天井にもアンティーク雑貨であふれかえり、高円寺でよく見かける古着屋さんや古道具屋さんをひっくり返したような楽しい空間が広がっている。さらに、真っ白なアンティークレースのクロスがかかったテーブルが、どんと店の真ん中に置かれていて、そのレトロなダイニング風景は、まるで映画のセットのようだ。

忘れてはいけない、ここはカレー屋さんである。ということで聞いてみると、メニューは「和だしそぼろカレー」のみだという。昨日も今日も明日も、『平日昼だけ』の店主・小山さんの気が変わらない限り、この1品だけなのである。

その「和だしそぼろカレー」がこれまた一風変わっている。まず、ご飯の頂上に“あげ玉”がハラハラとふりかかっている。カレーライスにあげ玉??「たぬき蕎麦」じゃあるまいし、なんだか異空間な雰囲気も手伝って、ちょっと「化かされた気分」にもなってきた。とにもかくにも、店主の小山さんにお話を伺うことに。
「味は蕎麦屋のカレーに近づけているので、流行りのスパイスカリーというより、ものすごく直球で“和の味”だと思います」

鰹節、昆布、どんこ、いりこから取った和食王道の出汁、蕎麦屋で使用するかえし醤油、オリジナルブレンドのスパイスと合わせて作るのが、ベースとなるカレースープ。このカレースープが、最初はマイルドなのに、後からじわじわと辛くなってくるのだ。
ごはんの上に振りかけられた肉そぼろ、叩いた梅肉、大葉、鰹節、揚げ玉。これらを混ぜなから食べると、噛むところによって強調してくる具材の味や香りがまったく変わる。和だしスープがこれらをまとめ上げているのだ。
そして、卓上にある山椒。これをふりかけると、さらに味に変化が出る。“かゆいところまで届くカレー”に感激!
ただ、このカレーを作るまでには苦労もあったよう。
「いわゆる黄金スパイスと呼ばれるマサラですが、これをただ出汁に入れてしまうと、一瞬にして出汁の風味を消し去ってしまうんです。出汁の風味を消さないスパイスの配に、かなり苦労しました。スパイスの香りをつけるだけではなく、味としてもスパイスを生かしつつ、辛さもきっちり表現しないと意味がない。強すぎても弱すぎてもダメ。そのスパイスの配合が難しくて、ようやく完成したのが今のカレーです」

セットのような空間で食べる、かなり真面目な和のカレーだ。思わず「平日昼だけなんてもったいなくありませんか?」と小山さんに言ったら、「それだと、店名を変えなくちゃいけなくなるんで」とのこと。確かに。しかし、店を出て振り返ると、やっぱりガラクタのような(すいません!)もので埋め尽くされた店先を見て、どうしても化かされた気分になる。なんとも不思議なカレー屋さんだった。
(取材・文◎土原亜子)
●SHOP INFO
店名:平日昼だけ
住:東京都杉並区梅里1-21-21
TEL:非公開
営:11:30~15:00
休:土日祝