文豪の住んだ菊坂界隈にある茶屋

甘味処『ゑちごや』は、樋口一葉や宮沢賢治、石川啄木、正岡子規など多くの文豪が住んでいたという文京区春日の「菊坂ロード」沿いにあります。
前述の通り、『ゑちごや』の創業は明治10(1877)年。その菊坂の路地裏に、明治25年頃に住んでいた樋口一葉は当時20歳。執筆の合間に団子を買いに行ったのかな、などと想像しながら店を訪問。

お昼すぎに入店すると、ご主人がみたらし団子や大福を買いに来るお客さんの対応をしていましたが、こちらに気づくと、「いらっしゃい」とニコニコ笑顔で熱いお茶を出してくれました。昼時なので、近所の会社員たちがどんどん入店してきますが、ご主人は、そのたびに笑顔で「いらっしゃい」と熱いお茶を出していて、ほっこりします。
店の厨房には女将さんもいて、お二人だけで切り盛りしているよう。お目当ての「五目そば」を探そうとメニューを手に取ると、その品数の多さにびっくり!

カレーライスにチャーハン、カツ丼などの丼もの4種、定食10種に、ラーメンなどの麺類も10種。甘味処なので、あんみつやみつまめ、田舎しるこ、団子や大福などもあります。これを全部お二人で作っているのがすごいですね。
さて、注文した「五目そば」は、12分ほどで登場しました。

丼には具材が溢れそうなほどたくさん浮かんでいます。白菜、青梗菜、ニラ、人参、ピーマン、しいたけ、しめじ、たけのこ、きくらげ、ネギ、豚バラ肉、かまぼこ、ナルト、チューシュー、ゆで卵……。五目どころか、“十五目”です!

さっそくとろみ強めのスープをすすると、アツアツで、中華ダシをベースにしたまろやかな塩味。きつい味は微塵もしません。麺は、中太の縮れ麺で、そのとろんとしたスープをまとって、口当たりはトゥルントゥルン。

白菜のシャキシャキ感、やわらかい豚肉、歯ごたえのあるたけのこなど、具材1つ1つの食感が楽しく、ボリューミーなのに、あっさり。ラーメンというより、お鍋を食べているような穏やかさです。そして最後までスープはアツアツ。体が芯から温まりました。

(撮影・文◎土原亜子)