ウスター?中濃?関西の粉もんに欠かせない「ソース」の秘密【前編】

長田ソース食文化の深さに触れる

 神戸市長田区。神戸のお好み焼きの聖地と言われ、『そばめし』発祥の地でもある。そんな“粉もんの街”長田にある「ユリヤ」は、ソース専門店として地元では有名なお店。

 長田神社の参道に面した商店街で、ホンワカと営業している。本来は酒屋さんだが、店頭に並んでいるソースの量が半端ない。しかし通行人の多くは、そんなソース群には目もくれず、通り過ぎていく。かく言う私もそんな一人。学生時代に毎日この前を通っていたけれど、足を止めた事はなかった。

 さて、ウスターソースの謎について、どう切り出したものかと店の前で考えあぐねていると、子どもを2人連れた男性が店頭のソースを手に取った。じっと眺め、立ち去る様子はない。思い切って、「こちらでソース、よく買われるのですか」と声をかけてみた。カメラを持っていたので、観光客だと思われたのだろう。男性は「そうですね。長田に生まれたからには、ソースにはこだわりたいですから。」とにこやかに答えてくれた。予想を超えた答えに驚いた。

地元のお客さん、高森さん。店頭のソースを楽しそうに選んでいた
地元のお客さん、高森さん。店頭のソースを楽しそうに選んでいた

 同じ神戸に住んでいるが、私はソースに対してここまでの思い入れはない。長田の人にとってソースとは一体何ぞや?むくむく湧いてきた新たなる疑問がどうしても気になって、「ソースのことを調べているんですが、ちょっとお話を聞かせてもらえますか」と言うと、快く了承してくれた。男性は、東灘区在住で、長田生まれの高森さん(46)。

「長田でオーソドックスなのは、『ばら』と『どろ』やね。」と高森さんは言う。バラトドロ、頭で繰り返すが、何のことだかさっぱり分からない。「つまり、長田を代表するソースといえば、地元の『ばらソース』、そして『どろ』と呼ばれるところが定番」と解説してくれた。

「長田区には他に、『ブラザーソース』、『オリバーソース』もある。子どもの頃から慣れ親しんだソースに長田の人はこだわるから、どこのソースを使っているか、表示しているお好み焼き屋も多い。『どろ』(辛くて濃いソース)も人気で、特に、長田発祥の『そばめし』には、この『どろ』が欠かせへん。大阪もソースが有名やけど、ちょっと甘めやね。広島にもカープソースというのがあって、これがコロッケに合うんやなぁ」高森さんのソース愛はかなり深いようだ。

灘区のプリンセスソース。近くの王子公園にちなんでプリンスソースだったが、すでに商標登録されていたため、プリンセスになったという驚きの名前の由来。
灘区のプリンセスソース。近くの王子公園にちなんでプリンスソースだったが、すでに商標登録されていたため、プリンセスになったという驚きの名前の由来。

「せっかくやから、今日は食べたことのないソースにしてみようかな」と、高森さんはお住まいの近く、灘区「プリンセスソース」のウスターソースを購入。これが取材であることを明かすと、「じゃあやっぱり長田の『ばらソース』を買えば良かった…」と言いながら、少し待ちくたびれた子どもたちと、仲良く帰って行った。しかし、プリンセスとか、ばらとか、何ゆえそんなに乙女チックなネーミングなのか…。ますます謎は深まるばかりである。(後編に続く)

●SHOP INFO

株式会社ユリヤ

店名:株式会社ユリヤ

住:神戸市長田区五番町8-1-6
TEL:078-577-0231
営:9:00~19:30
休:日曜
http://www.yuriyasauce.com/

●著者プロフィール

村上由香

神戸育ち・在住。安くて美味しいものに巡り会うのが幸せ。旅とアルパカが大好き。近々、子ども食堂を開設したいと構想中。