ウスター?中濃?関西の粉もんに欠かせない「ソース」の秘密【前編】

ウスター派?中濃派?関西の粉もんに欠かせない「ウスターソース」の秘密【前編】
食楽web

深すぎる関西のソース文化

 とんかつとウスター。筆者を含め、関西で生まれ育った者にとって、この2種類のソースが家に常備されているのは当り前だ。昨今の粉もん流行により、お好み(焼き)や焼そばといった専用ソースや、こだわりの地ソースなども定番になりつつあるが、基本はとんかつとウスター。幼い頃から特に何の疑問も持たず使ってきた。

 ところがある時、どうも関東には「中濃」なるソースがあり、すべてをその1本でまかなっているらしいと知った。「嘘でしょ? そんなリンスインシャンプーみたいな・・・」。それが率直な感想だった。だって、とんかつとウスターは全然違うのに。どうやって一つにできるというのか?

 実際には、その中濃ソースとはとんかつソースに近いらしい、と聞いて、さらに驚いた。我が家では、とんかつソースはまさに「とんかつ」専用。同じ揚げ物でも、コロッケや海老フライには絶対にウスターだし、メインがとんかつの時だって、付け合わせのキャベツには、わざわざウスターを出してくる。こんなに万能なウスターソースのない生活なんて、さぞ困るだろうな、と思う(大きなお世話でしょうが…)。

ウスターソースは、イギリスのウスターシャ地方で作られた「ウスターシャソース」が発祥であるらしい。ある主婦が、余りものの野菜や果物を捨てずに取っておき、酢や香辛料をかけ壷の中に保存したら、発酵してウスターソースになっていたという。
ウスターソースは、イギリスのウスターシャ地方で作られた「ウスターシャソース」が発祥であるらしい。ある主婦が、余りものの野菜や果物を捨てずに取っておき、酢や香辛料をかけ壷の中に保存したら、発酵してウスターソースになっていたという。

 調べてみると、ウスターソースの基本的な材料は、野菜、果物、酢、糖類、塩、香辛料。そこに足したり引いたりがあって、複雑な味が形成されている。また、ウスターソースもとんかつソースも、JAS規格ではみんな「ウスターソース類」であり、定められた粘度(とろみ)によって、「ウスターソース・中濃ソース・濃厚ソース」の3種類に分けられる。ちなみにとんかつソースという部類はないので、「濃厚ソースの中の、商品名とんかつソース」ということになる。

 しかしこれだと、ウスターソースというのは単に「粘度が低いソース」と思われそうだ。確かにウスターソースは薄い。とんかつソースがトロッと表面コーティングされるイメージならば、ウスターソースはジュワッと染み込むか、撥水加工のように表面をすべりおちていく。でも決してそれだけではない。なんと言うか、ウスター独特の、食べる前に鼻を突くあの香り。すべての味をウスター風に変えてしまうウスターソースは、明らかに別モノなのである。

 そこで、ウスターソースの秘密を探るべく、以前から気になっていたある場所を訪れることにした。