パリのレストランで印象に残った店は──

パリのレストラン「パッキオ」で空けたワインの数々。7人で合計7本空けたそうな
編集部 ロワールでのサロン訪問以外では、やはりパリのレストランめぐりでしょうか。印象に残った店はありました?
大山 僕は二日目の夜に行った「アキッレ」。
坪田 ホントに行ってよかったと感じたのは「アキッレ」かな。ピエール・ジャンクーというオーナー兼ソムリエの方の店です。行ったのがサロンの前日だったからかもしれないけど、世界中のワイン関係者が来ていてものすごく盛り上がっていたよね。
大山 僕たちもそうだけど、店のスタッフもテンションが高かったですね。“いいトコ見せなきゃ”って。ピエールのサービスって凄くラフなんだけど、実はしっかりコントロールされている気もする。
坪田 ラフなんだけど、温かいんだよね。ホスピタリティがとにかく凄い。料理が70点でも、会計して帰るときには120点にしちゃうくらい魔法を持ったサービスマンで。レストランで待ち合わせして座っているだけなのに、久しぶりにドキドキしましたもん。「凄いな、この店」って。
大山 ピエールって、古くて安い物件を借りたら自分たちで改装、素敵な店にして、流行らせたら売却し、次の展開へ──というのを繰り返しているんだよね。
坪田 そうそう。シンプルだけど美味しい料理と亜硫酸塩をほとんど使わない、キレキレのヴァンナチュールで繁盛店にして。「クラマト」や、いまはニューヨークにある「ラシーヌ」も手掛けていたし、オデオンにある「ラ・クレムリー」もそうだよね。オーナー業というか、プロデュースがとにかく上手い。

アキッレにて食後の一服風(写真はイメージです)
大山 もう一軒挙げるなら「パッキオ」かな。オープンしてまだ日が経ってなかったって聞きました。
坪田 まだ看板もできてなかったし、ちょっとフワフワした部分もあったけど……。
大山 これから絶対いい店になるなと。
坪田 料理もいいし、ワインも数はそれほど揃ってないけどキレキレのセレクション。ファビアンというソムリエ、確か31歳と言っていたけどサービスのテンポもいいし、ワインのすすめ方も上手だったよね。
大山 ファビアンのサービスって粋だなと思った。品もあるし面白いし、なんだか可愛らしくて。
坪田 あと、久しぶりに行った「ル・セヴェロ」も「ル・バラタン」も変わらず良かったね。
大山 「ル・セヴェロ」はあらためてステキだな、と。いまパリで盛り上がっているマレ地区とは反対の14区にあって、昔と変わることなく淡々とステークフリットを出していて……カッコいいなあと思いました。ああいう店こそ、パリに行く意味を感じます。地元のおじさんたちが旨い肉を喰らいに行く感じ。東京でいうなら、目黒のとんかつ「とんき」に近所のおじさんたちが通う感覚っていうか。
坪田 わかる。いまはどこに行っても北欧の影響が強かったりするし。パリに行って何か感じるのって、ああいうビストロだったり、昔ながらのカフェだったりするから。
大山 今はサードウェーヴ・コーヒーやスカンジナビアライクな食事が世界中あちこちで出ていて、パリにいるんだか、北欧にいるんだか、東京にいるんだかという感じで。もうそこで採れるものでしかローカルさみたいなものがないのかな、と。
坪田 確かに。ローカルなものとガツンとぶつかる違和感こそ、旅の面白さだと思う。流行りの店だけに足を運ぶのはつまらないし、もったいないよね。僕も一人旅なら、地元の人だけでにぎわっているような店に必ず行きますし。
大山 ま、いろいろ刺激を受けたのは確かだし、「アキッレ」や「パッキオ」のように、うちもより純度の高いお店を目指していきたいと思っています。4坪の立ち飲み屋だけど細々と、雑然と、存在し続けていければ……。