ブドウ畑の随所に環境に対するワイナリーの思いが光る

北陸・長野新幹線の停車駅でもあるJR上田駅から車でおよそ20分。周囲を山々に囲まれたのどかな小高い丘の上に広がる椀子ヴィンヤード。約30haという広大な土地でブドウの栽培やワインづくりを行っています。我々がまず訪れたのが、その中央部にあるワイナリー。今回のワイナリー見学のスタート地点です。
今回案内してくれたのは、シャトー・メルシャンのゼネラルマネージャー・小林弘憲さん。フランス・ボルドー大学やオーストラリアなど世界で醸造技術を学んだワインづくりのエキスパートです。
さっそくブドウ畑に向かいます。まず目についたのが、畑の地面に生えた草。まるで草原の上にブドウの木を栽培しているような光景です。

これは生物多様性を重視し、草生栽培を行っているからだそう。これらの植物はすべて自生したものだと言います。
見ると白ワイン用の品種であるシャルドネの畑には、すでに緑色をしたブドウが実りつつあります。

「椀子ヴィンヤードでは、主に白ワイン用のシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランと、赤ワイン用としてメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどを栽培しています。品種により異なりますが、9月上旬から11月上旬にかけて収穫時期を迎えます」と小林さん。
ブドウの収穫量は100トンから110トンに及ぶと言います。これは750mlボトルのワインに換算すると約10万本に相当する量というから驚きですよね。また、品種それぞれの個性を最大限に出すべく、栽培方法も少しずつ変えているのだとか。

「例えば、豊かな酸味が重要となるソーヴィニヨン・ブランの場合だと、日光に当たることで酸をなるべく消費しないよう、あえて葉を除葉せず、葉で日陰をつくり、房を覆うなど工夫しているんです」(小林さん)

説明を受けながらワイン畑を進んでいくと、その先に土が山積みになったような場所へ到着。実はこれはワインづくりで出た、皮や茎、枝などのブドウかすを堆肥にしたものだそう。
「毎年こうしたブドウかすが年間90トンほど出ます。一般的には、産業廃棄物として破棄されるものなのですが、ここでは微生物を入れて約2年間かけて堆肥にして、再び畑に戻しています」(小林さん)
肥料だけではありません。こちらでは農業用水も、雨水などを地下の貯留槽(タンク)に貯めたものを使用していると小林さん。
「水の運搬などでなるべく車を使わなくて済むように、敷地内の2箇所にタンクを設置し、農業用水として使用しています」
ブドウ畑ひとつとっても、自然との共生や持続可能な農業への取り組みはもちろん、CO2削減に向けた取り組みなど、さまざまな工夫が凝らされているなと感心しつつ、次にワイナリーを案内していただきました。
美味しさと環境へのこだわりが詰まったワイナリー

他の多くのワイナリーと異なるのは、ブドウを破砕する場所が2階にあり、タンクが1階に配置されている点です。これも高低差を利用することで、できるだけポンプ(電力)を使わずに済むようにとの工夫だと小林さん。
ちなみに椀子ワイナリーでは、二段階選果を採用。まず房が全体的に赤いものを取り除く「房選果」を行い、その後、一房ずつ粒単位で選んでいく「粒選果」を手作業で実施。この二段階選果がワインの品質に大きな影響を与えると言います。

また出来たワインを樽に入れて保管する貯蔵庫にも環境に対する配慮が。
「ワインは熱や乾燥に弱いため、貯蔵庫は年間を通して室温15℃以下、湿度70%以上に保つようにしています。ただ、年間を通してエアコンをつけっぱなしにするわけではなく、日々の気候により、エアコンやミストを切るなど細かく調整しています」(小林さん)
このように美味しさの追求はもちろん、持続可能な農業としてのワインづくりという点においても、さまざまな取り組みに挑戦している椀子ワイナリー。今年は日本ワインづくり145周年だそうで、椀子ワイナリーにも近い長野県北信地区のブドウを使った最高峰の限定ワインが「シャトー・メルシャン 北信シャルドネ スペシャルエディション2022」です。

なんと今回はこちらを試飲できることに。グラスを近づけると、パイナップルや熟した洋梨を思わせる濃厚な果実香、さらにヴァニラやヘーゼルナッツの香りが鼻腔をくすぐります。口に含むと期待以上の豊かな酸と厚みあるミネラル感が。その後は心地よい余韻が口中に残ります。ヴィンヤードを見学した後だけに、感慨もひとしおでした。
ちなみにシャトー・メルシャン 椀子ワイナリーでは、一般的なワイナリーツアーのほか、9月2日と11月11日の2日間限定で「SDGsツアー」も実施予定。同ワイナリーのさまざまな取り組みを体感できるのはもちろんのこと、ワイナリー限定品を含む6種類のワインを試飲することもできますよ。
(取材・文◎室井康裕)
●シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー