
映画を観ているとき、料理や食事のシーンに引き込まれて、無性に食べたくなること、ありますよね? そんな「おいしい」映画を紹介する連載です。
美味しいかどうかは別にして
福山雅治が下ネタを連発する汚れ役を演じたことで話題となった2016年10月公開の「SCOOP!」。「モテキ」や「バクマン。」などを代表作に持つ、大根仁監督がメガホンを取った同作は、雑誌編集部を舞台にした群像劇である。
二階堂ふみ扮する新人記者・行川野火の教育係を任されることになった中年パパラッチの都城静(福山雅治)は、映画の冒頭において、こんな捨て台詞を吐く。
「堅気が寝ている間にオレたちの食いぶちは転がっているんだよ」
ネオン煌く夜の街を徘徊し、世間をあっと驚かせるスクープを狙う都城と野火。同作では、六本木や恵比寿など、臨場感あふれる東京の夜の移ろいが90年代以降のクラブシーンに多大な影響を与えたTOKYO NO.1 SOUL SETの川辺ヒロシによる劇伴とともに描かれている。こうした東京の裏側の描写は、大根監督の真骨頂ともいえる。
また東京の夜の一コマを通して、登場人物たちの関係性や心の機微を垣間見ることができる。
その一つが立ち飲み屋で吉田羊演じる副編集長の横川定子が社内政治により記事がボツになったことを都城に告げるシーンである。
「文春にでも持っていこうかな」
と、うそぶいて見せる都城は、その後、定子に向かって股間を動かし、「俺のモノに比べたらー」と下半身の大きさをアピールし始める。すると定子は「そんなにでかくないでしょう」と一蹴し、“ポークビッツ”を手に取るのだ。
実は、物語の後半で明らかになるのだが、都城と定子は、仕事だけでなく、長らく男女の関係にある。その伏線としてポークビッツを忍び込ませているわけ。大根監督らしい遊び心のある演出である。
このほかにもバーでストレートのウィスキーを酌み交わす都城とネタ元のチャラ源(リリー・フランキー)。さらに、行きつけのスナックを貸し切って盛大な打ち上げを行う編集部一同。味の善し悪しは別にして、“食”はやっぱりコミュニケーション手段なのだ、ということを改めて思い知らされるシーンだ。
同作は、旧世代から新世代への継承をテーマにした映画であり、やがて時代遅れになって去りゆく者たちの刹那が、眠らない東京の夜を通して描かれている。こうして今日も誰かが誰かと酒を飲み、それぞれの東京の夜は更けていく。
■INFORMATION
『SCOOP!』(2016年/監督・大根 仁)
かつてはスターカメラマンだったが、いまは借金まみれの中年パパラッチの都城静(福山雅治)が新人記者(二階堂ふみ)とコンビを組み、事件を追っていくのだが……。
(文・大崎量平 イラスト・箕輪麻紀子)