21時からはノーメニュー!
『SANS DECONNER』(松濤)

瀟洒な一軒家が立ち並ぶ渋谷区松濤の住宅街に、毎夜温かみのある明かりがガラス戸越しに漏れる、一軒のビストロが登場したのは、昨年6月のこと。肩に無駄な力の入っていない、いい意味でゆるくて、リラックスできる空気感の源は、この店の主であるオーナーシェフ・渋谷将之さんのキャラクターにあります。「うち、ゆるゆるですよ~(笑)」と、人懐っこい笑顔で自ら宣言するほど!
出身地の神戸で料理人として働いた後、30歳からの10年間はパリと南仏で経験を積んで帰国。自身の店を開くにあたって「公園の前にある物件」という条件で探し当てたのは、ほかにはほとんど飲食店がない、松濤の裏通りでした。ところが、開店間もない頃から口コミでジワジワと評判を集めて、着実に人気店に。

ディナータイムの21時までは7000円のおまかせコースのみ。ですが、それ以降は、思いっきり自由な時間に。お腹の空き具合を勘案して、品数を相談。「じゃあ、前菜とメインの2品にします? メインは、今日のお肉は豚のほっぺた、魚だったら……サバは?」と極めてフレキシブル。
料理はどれも、店の軽やかな空気感と呼応するかのように軽快でみずみずしい味わい。「酸味が大好きだから、どのお皿にもなんらかの酸味を効かせたい」と渋谷さん。ゆえに、フルーツも巧みに取り入れ、ひと皿の中に酸味とさまざまな香り、食感が共存しています。

そんな料理の“相方”であるワインをサーヴするのは、渋谷さんの良き右腕・マルコさん。彼が会ったことのある生産者、つまりキャラクターを知っていて、信頼できる人が作ったワインだけをセレクトしています。細かい講釈は、無用。“Don’t Think, Drink!”の精神、こちらも気構える必要は一切なしです。
屈託なく料理を作る渋谷さんの姿にも心が解け、ついつい飲み過ぎる可能性大。が、とにかく楽しければOKってことで!
●SHOP INFO

店名:SANS DECONNER(ソンデコネ)
住:東京都渋谷区松濤2-13-10
TEL:03-6479-4625
営:12:00~14:00LO、19:00~23:30
休:日、月ランチ
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「ワイン1杯からでもどうぞ」。グリーンショップ奥の美食店
『WINE&BISTRO Eme』(武蔵小山)

東京にビストロは数あれど、武蔵小山の『Eme』ほど、個性際立つ店はそうそうないでしょう。
第一に、そのロケーション。観葉植物などを扱うセンスのよいグリーンショップを抜け、ガラス戸を開けると、そこにカジュアルで上質な食空間があらわれるんです。店主の武藤恭通さんがヨーロッパで買い付けたというインテリアでシックにまとめられ、カウンターの後ろのセラーには、セルフで選ぶこともできるワインがずらり。調味料や蜂蜜を販売するグロサリースペースもあり、その気取らぬ雰囲気に心をぐっと掴まれます。

バスクをはじめ世界各地での料理修業経験がある武藤さんが作る料理は、フランスの郷土料理を軸に骨格がしっかりとした味わいのものが多いですが、ひとり客にはポーションを少なめで提供してくれるのも嬉しいところ。

ビストロとワインバーを融合させた自由度の高さやゆるやかな空気感が心地よく、1日の締めくくりに何度でも足を運びたくなるお店です。
●SHOP INFO

店名:WINE&BISTRO Eme(ワインアンドビストロ エメ)
住:東京都品川区小山3-11-2(TRANSHIP奥)
TEL:03-5751-7636
営:11:30~14:30LO、18:00~22:00LO
休:月、その他不定休あり
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コース終了後はアラカルトで、ゆるーくゲストを迎えています
『松喜(喜の字は本来七が三つ重なる字です。以下同じ)』(中野)

個性豊かな飲食店が多い中野で、今もっとも話題なのが『松喜』。店主の藤澤進大郎さんと侑子さん夫妻は、それぞれ東京のビストロ創成期を支えた人気店出身。「東京のビストロに、いま何が求められているのか」を肌で感じてきたとあって、店にはふたりの感性や経験の豊かさが息づいています。

21時までは5000円のコース一本。それ以降の時間帯は予約を取らず、アラカルトのみで営業するのも時代のニーズをいち早く読み取ってのことだとか。揃えるワインは飲み疲れしないナチュールが中心。スープやシャルキュトリーなど、美味しい料理をラフに楽しめるのも“いま”の気分に合っています。

オープンな雰囲気はひとり客にも優しく、スタッフとゆるやかなコミュニケーションを楽しむうちに、気が付けばリピーターに。通うほど、この街と店への親しみが増していくようです。
●SHOP INFO

店名:松喜(マツキ)
住:東京都中野区中野2-23-3
TEL:070-3274-3730
営:18:30~24:00
休:不定休
「残業の後は、キチンと美味しいものを食べながら飲みたい!」。そんな欲求に応えてくれるお店が増えるのはうれしい限り。普段使いできるフレンチとして、ぜひ訪れてみてください。
(文◎小石原はるか・小寺慶子 撮影◎大谷次郎・鈴木拓也)
※当記事は『食楽』2019年春号の記事を再構成したものです