日本にはない概念の食べ物。バングラディシュの謎料理「水ごはん」を食べてきた!

日本にはない概念の食べ物。バングラディシュの謎料理「水ごはん」を食べてきた!
食楽web

●一向に秋の気配が見えない日本列島。アイスやかき氷もいいけれど、新大久保のバングラディシュ料理店では、なんと「水ごはん」なる涼感メニューが存在するとの噂。珍食材に精通するライター・ムシモアゼルギリコが実食してきた。

「日本にはない概念の食べ物」。

 これが、年中珍しい食べ物を精力的に食べ歩いている友人による説明でした。それはまさに、“地球沸騰化”と呼ばれた今年の夏にぴったりの食べ物。新大久保のバングラディシュ料理店『サルシーナハラルフーズ』で提供される、夏季限定の「水ごはん」です。

新大久保の路地裏に佇む『サルシーナハラルフーズ』
新大久保の路地裏に佇む『サルシーナハラルフーズ』
店のメニューは日替わり。見慣れない料理の名前がズラリと並ぶ
店のメニューは日替わり。見慣れない料理の名前がズラリと並ぶ

 水ごはんとは、何か。自分の食生活の範疇から想像するなら、米にダシ汁や冷たいスープをかけて、サラッと食べる料理が思い浮かびます。ところが運ばれてきた皿は想像をはるかに越え、極限にシンプルなものでした。ただの水に常温の米をドボン。それが、水ごはんの全て。「水かけごはん」というほうが、伝わりやすそうです。

「虚無」という言葉が頭をよぎる、シンプルすぎる「水ごはん」。サルシーナではこれにおかずをのせた状態で提供されるが、「水ごはん」の説明のため、おかずをのせない状態で特別に出してもらった
「虚無」という言葉が頭をよぎる、シンプルすぎる「水ごはん」。サルシーナではこれにおかずをのせた状態で提供されるが、「水ごはん」の説明のため、おかずをのせない状態で特別に出してもらった

「バングラディシュでは〈パンタバート〉と呼ばれ、新年のお祭り・ボイシャキメラでも食べられます」と、レストランスタッフが説明してくれました。

 新大久保の路地裏にたたずむ食材店の小部屋でこれが出てくるとは、異国情緒ありすぎませんか……!(もちろん単品で出てくるわけではなく、パンタバートのうえにバングラディシュ料理定番のおかずをたっぷりのせて提供されます)。子どもの離乳食づくりで水分マシマシの米はそれなりに調理してきたものの、おじやでもおかゆでもリゾットでもないそれは、かなり衝撃的。

 バングラディシュは世界で一番米を食べていると言われる国なだけあり、ビリヤニ(複雑な手順で重ね蒸しする米料理)やキチュリ(米と豆の粥)、ポラオ(スパイスを使う炊き込みご飯)など米料理が多彩です。そんな中でも、食文化の違いからか、水ごはんはなかなかの存在感を放っているように感じました。

水ご飯について教えてくださった、店主のバキさん。レストランはハラルショップも併設しており、米や油、豆や香辛料などが買える
水ごはんについて教えてくださった、店主のバキさん。レストランはハラルショップも併設しており、米や油、豆や香辛料などが買える

 水ごはんに使われているのは、香り高く細長いバスマティライス。炊くとパラッとなるのが特徴です。それを水に浸けたらどうなるのか? ふっくらするのか? いいえ、水につけてもパラッと感はそのままです。

 でも決してまずいわけではありません。この水ごはんの上に、どんどんおかずをのせていくため、そこから味が染み出して水に多彩な味がうつり、味わい深さを増す料理なのです。

おかずをドカドカッとのせた水ごはん。オムレツやナス、魚、エビのバジ(揚げ物)などがのってボリュームたっぷり。ただしこれは日本人客に向けた豪華バージョン。現地では「水ごはん+ゆで卵」という、素朴な食べ方も珍しくないという
おかずをドカドカッとのせた水ごはん。オムレツやナス、魚、エビのバジ(揚げ物)などがのってボリュームたっぷり。ただしこれは日本人客に向けた豪華バージョン。現地では「水ごはん+ゆで卵」という、素朴な食べ方も珍しくないという

 今回のおかずは、バングラディシュ料理おなじみのボルタ(ボッタとも言う。食材をマッシュしたもの)。野菜や魚のバジ(揚げ物)など。コクのあるおかず中心で、さっぱりした水ごはんと相性抜群。激辛の調味料も添えられ、シャバシャバした水ごはんがすすむことすすむこと! 酷暑でも胃にスルッと入っていき、水ごはんの美味しさに目覚めた瞬間でした。

未体験の水ごはんの美味しさに目覚める筆者
おそるおそる口に入れ、未体験の水ごはんの美味しさに目覚める筆者

 ちなみに『サルシーナハラルフーズ』では「今日は暑いから、メニューに水ごはん出そうか」というノリなんだとか。これが冬だと「お湯ごはん」になるというのも面白いですね(※バングラディシュに「お湯ごはん」は存在せず、サルシーナオリジナルのメニューです)。

 さて、最大の疑問。なぜ水に浸けるのか? 店主のバキさんは「保存が目的」と説明します。

「バングラディシュで冷蔵庫のない家庭では、その日残ったごはんが翌朝ほぼ腐ってしまう。でも、水につけておけば保存が効くんです。もちろん、うちのレストランで出している水ごはんは、その日に炊いたものを水に浸けてすぐ出しているので安心してください」

 一般的に食べ物が腐るのは、原因となる菌が付着して、酸素、温度、水分がある環境でタンパク質が分解されていくから。だから放置すれば水ごはんも当然腐っていくわけですが、水中のほうがまだ空気量が少なく菌の増殖を抑えられる……という理屈でしょうか(大事なことなので2度言いますが、そのまま置いておけば必ず食中毒の原因となります)。

 さらに巷のウワサによると、ワンチャンで、アルコール発酵の味わいを狙って作るケースもあるのだとか。バングラディシュは宗教上アルコールが禁止ですが、そんな偶然を装ってでもアルコールを味わいたいという嗜好品への情熱がすごい(あくまでウワサなので真偽は不明!)。食の知恵や人々の生活を感じられる、エネルギッシュなひと皿でした。

おまけ。別の店で食べた水ごはんも、同じく魚とナスのバジ(揚げ物)がのせられ、辛いダル(マッシュ料理)が添えられていた
おまけ。別の店で食べた水ごはんも、同じく魚とナスのバジ(揚げ物)がのせられ、辛いダル(マッシュ料理)が添えられていた

 まだまだ厳しい暑さが残るこの季節、未体験の方はぜひお試しを。我が家でも、さっそく導入し始めました。なんといっても、超絶お手軽。バスマティライスに水をかけるだけですから。

●SHOP INFO

店名:サルシーナハラルフーズ

住:東京都新宿区百人町2-1-50
TEL:03-6278-9895
営:11:00〜21:00
休:無休
※水ごはんを使ったプレートは提供していない日もあります。その日のメニューはX(Twitter)などでチェックを!

●著者プロフィール

ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。