「速醸もと」って何?|今さら聞けない日本酒

「速醸もと」って何?|今さら聞けない日本酒
食楽web

日本酒、楽しんでますか? 米と水で醸されることは知っているけれど、実際、それがどのように作られ、日本酒となっていくのか、知らない人も多いのでは? 麹、酵母、醪、発酵……。確かに難しそうに思える日本酒用語。けれど、その基礎を知っておくだけで、日本酒はもっと身近に、もっと楽しく、美味しいものになることは間違いありません!

 前回は日本酒の製造工程において、生もと系の酒母造りについて触れた。今回はその続き、「速醸もと」による酒母造りについて紹介したい。

 生もと造りでは自然界の乳酸菌を取り込み、酒母を育てていくと話したが、それに対して速醸もとは、酒母にはじめから乳酸を加えてしまおうというもの。山廃仕込みと同様、こちらも明治の後期に誕生した製法だ。

 生もと、山廃が約1ヶ月かけて酒母を育てていくのに対し、速醸もとに要する期間はその半分の約2週間。人手も労力もかからないうえ、生もと系のような酵母がうまく育たないというリスクもない。酒母も確実に培養できるということからも、現在では多くの酒蔵がこの速醸もとによる酒母造りを行なっている。

 それでも、生もと造りや山廃仕込みにこだわる酒蔵が全国には少なからずあるのはなぜだろうか? それは、生もと造りでしか引き出せない味わいの日本酒ができるからといっていい。微生物たちが自然淘汰されていく、生もと造りの厳しい環境の中で育った逞しい酵母は、もろみ造りの末期のアルコール度数が高いなかでも死滅しづらいのである。

 それゆえ野性味があり、腰のすわった、キレのある日本酒ができる。山廃で仕込まれた日本酒も酸度が高く、力強い酒質の日本酒ができるという特徴がある。それに対し、速醸もとは香りが立ちやすく、さっぱりとした酒質になりやすい。そう、生もと造りは速醸もととは一線を画す独特の味わいを生むのである。

 と、ここまで、生もと、山廃もと、速醸もとと3つの酒母造りについて話してきたが、ここでできた酒母が次に行うもろみ造りのベースになる。酒母造りにおいて、いかに優良な酵母を育てるか。それは日本酒造りの山場のひとつといっても過言ではない。

(文◎大西健俊)

●著者プロフィール

監修/栗原信利

東京農業大学農学部醸造学科卒業後、兵庫県の酒蔵で蔵人として働き、町田市に本店を持つ「さかや栗原」の店主に。全国小売酒販青年協議会会長、International SAKE Challenge日本人審査員も務める。2017年3月には、町田駅近くに「立ち呑み栗原」をオープンした。