01話【コーヒープレス古今東西】余裕のない私にも、コーヒープレスはやさしいのに。

【コーヒープレス古今東西】余裕のない私にも、コーヒープレスはやさしいのに。
食楽web

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

 一日に三回はコーヒーを飲む。

 なんてコーヒー好きを気取った言葉を発してみたが、飲めばいいというものではない。こと最近は日々に流されて、「ゆっくりコーヒーを味わっているのか」と己に問いかけギクリとする。もともとは家で淹れるのが好きではあるが、最近は日常に追われる余裕のなさにあぐらをかいて、喫茶店やカフェ、コンビニのテイクアウトで飲む機会が増えた。最高の一杯もあれば、カフェイン入りのお湯のような代物もある。味の良し悪しがどうであれ、バタバタと慌ただしい気持ちで流し込むなら結局同じ。そんな気がしてため息が出る。

もともと面倒くさがりの私がコーヒーをわざわざ淹れる理由のひとつが、豆を挽いたときのたまらない香りにある。ゴリゴリという固い音が次第にやわらぎ、甘い芳香が立ちこめる瞬間は毎回気分が高揚する。シュンシュンとお湯の沸く音や、ゆっくりとお湯を豆に垂らしていくプロセスまで好き、と言うほどの忍耐力はない。豆を挽くお楽しみを終えればすぐ「飲みたい!」という子どものような欲求が心を駆け巡ってしまう。

 そんな無粋者の私にもやさしい道具がある。紙のフィルターを使わずに、豆から挽いたコーヒーを味わえるコーヒープレスだ。道具にこびりついた豆ガラを捨てるのが少々手間ではあるが、挽いた豆を入れ、湯を注ぎ、3~4分待てばおいしい一杯ができあがる。もう足かけ7年使っているというのに、毎回「なんて簡単なんだ!」と感動するほどの手軽さだ。

 手で淹れるにせよ、電動ドリッパーを使うにせよ、世の主流は紙フィルター。最近少し増えてきたとはいえ、いまだコーヒープレスは地味な存在。クリアですっきりしたフィルターコーヒーの味も好きではあるが「挽いた豆をお湯につけて、出てきた液がコーヒーだよ」と、原点を直球で伝えてくるコーヒープレスの愛おしさがもっと広がればいいのに。

 そんな理由で、コーヒープレスのことをこれからいろいろ書いていこうと思う。

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP : http://take-root.jp/