和歌山が誇る最強のきのこ「龍神マッシュ」とは? 龍神村で生まれる幻の巨大しいたけを追う

龍神マッシュは中学校で生まれる!?

龍神マッシュは廃校になった下山路中学校跡地で育てられている
龍神マッシュは廃校になった下山路中学校跡地で育てられている

 さて、地元の方に龍神マッシュの生産現場に案内してもらったのですが、なんとその場所は意外にも中学校! 厳密に言えば、廃校になった元・中学校でした。

 校庭には龍神マッシュを育てる17棟のハウスがズラリ。森林が総面積の約90%を占めるという龍神村の環境からして、てっきり原木栽培かと思い込んでいましたが、実は龍神マッシュは菌床(きんしょう)栽培されていることが判明。

 この龍神マッシュを育てているのは、株式会社龍神マッシュの代表を務める地元出身の伊藤委代子さん(78)。非常にパワフルな女性で、取材に訪れた日も、さっそうと軽トラを運転して校庭にやってきました。

軽トラで校庭に現れた伊藤委代子さん。背後にある建物が龍神マッシュの育成ハウス
軽トラで校庭に現れた伊藤委代子さん。背後にある建物が龍神マッシュの育成ハウス

「株式会社龍神マッシュは、かねてより地域の発展を願っていた2人の建設業者から想いを託された会社です。椎茸を育て始めたのは2008年。昔から、龍神村では原木の椎茸栽培が盛んだったんですよ。でもサルやらイノシシやらの獣害が増えてね。そこで安定して作れる菌床栽培の椎茸を作ることにしました。地域の雇用創出の目的もあってね」(伊藤さん・以下同)

 2025年現在、ここでは7人のスタッフさんが、まるで子どもを見守るように、大事に大事に龍神マッシュを育てています。聞けば、1棟のハウスに、7000の菌床が設置されているとのことで、管理がものすごく大変だそう。

伊藤さん(左)と、この日ハウスで働いていた小杉さん(右)
伊藤さん(左)と、この日ハウスで働いていた玉置さん(右)

「ハウスで椎茸を菌床栽培してるとこ、全国にたくさんあるでしょ? でも、うちはその中でも一番じゃないかと思うくらい、すごく手をかけてるんです。菌床への水やりは朝・昼・夕。水のあげすぎもよくないから適度に乾いたところでまた水をかけて。棚に収めた菌床も、様子を見てしょっちゅう上下を入れ替えたりね。スタッフが交代で働いてくれてるんですけど、もうみんな大変ですよ(笑)」

 菌床に生えた龍神マッシュは、ある程度大きくなって収穫されると一週間くらいでまた生えてきます。このサイクルが、一つの菌床で半年ほど繰り返されるとのこと。

立派に育った龍神椎茸。小さいものや形のよくないものは干し椎茸にする
立派に育った龍神マッシュ。小さいものや形のよくないものは干し椎茸にする

 こうして愛情をたっぷり注がれた龍神マッシュは、地元のスーパーに出荷されたり、前述のように全国の日本料理店などからも引き合いがあると言います。愛される理由の一つは、“クセがなく食べやすい”ことだと伊藤さん。

「龍神マッシュは肉厚でジューシー。コリコリとした歯ごたえも魅力です。また、椎茸特有の匂いもヌルヌル感も少ないのが特徴。だから椎茸が苦手な人も、これだったら食べられる、と言う人も多いんですよ」

 伊藤さんのオススメの食べ方は、素揚げやフライ、天ぷらなどの揚げ物。確かに、淡白でクセがなく、歯ごたえ抜群の龍神マッシュを楽しむにはもってこいの食べ方ですね。

特に大きくて形の良いものは進物用になる
特に大きくて形の良いものは進物用になる

 もちろん、シンプルに焼き網で炙って「焼き龍神マッシュ」にしたり、焼いた龍神マッシュの上にリゾットを盛り付けて「龍神マッシュ・リゾット」にしてもおいしいそう。

職員室で出荷の作業が行われていた
旧職員室で出荷の作業が行われていた

 この龍神マッシュ、東京・有楽町の交通会館にある『わかやま紀州館』に毎週金曜日に入荷するほか、龍神村の特産品を販売するサイト「龍神はーと」でお取り寄せも可能です。