
賑わう小町通りの中、ふっと日常から浮き上がるような一軒の喫茶店があります。

『鎌倉甘味処くるみ』(以下、くるみ)は、1968年の創業以来、地元の人々と観光客の心を穏やかに満たしてきた鎌倉の甘味処です。

看板には、鎌倉建長寺や京都建仁寺の天井画を手がけた日本画家・小泉淳作氏による、力強くもあたたかなロゴ。その中で供される甘味はどれも、一朝一夕では得られない“時間”と“技”が染み込んでいます。
訪れるたび、人々を感動させる美しい白玉は、新潟県産の米粉を使用し、手ごねで仕上げて提供しています。水分の加減ひとつで仕上がりが大きく変わるため、季節や湿度、その日の天気によって配合を変え、丁寧に仕込まれます。

一粒ひと粒の大きさは驚くほど均一で、表面にはほんのりとした光沢があり、宝石のようだと見惚れるほど。口に含めば、もちもちとした弾力の中に、やさしい柔らかさがあり、まさに絶妙なバランスで、筆者がこれまで出会った白玉の中で、確実に三本の指に入る完成度です。
白玉と合わせるのは、湘南製餡のあずき餡で、地元の神奈川で長年信頼を寄せられてきた名品です。なめらかで雑味がなく、米粉の風味や冷たいお茶とも驚くほど好相性なのです。
作り手の手の感覚、温度、湿度への読み、そして何より“今日もおいしくありますように”という想いが込められた一品です。看板メニューである「くるみ特製あんみつ」にも入っていますので、ぜひ白玉のおいしさを体験してみてくださいね。

今年の限定かき氷は、ピンクグレープフルーツと白桃みるく

かき氷は、見た目にも涼しげな昔ながらの“しゃくしゃく”氷。しっかりとした食感と、口の中でスーっととける余韻が絶妙で、毎年“初氷”として訪れるリピーターも多いのだとか。
この夏の限定メニューとして登場したのが、「ピンクグレープフルーツかき氷」と「白桃みるくクリームかき氷」です。

白桃のやわらかな甘さに練乳とバニラアイスが重なり、ひと口ごとにじんわりと広がります。シャクっという氷の音までがごちそうです。
乳脂肪率にこだわったアイスクリームもコクはありつつも後味はすっきり。最後のひと匙まで楽しめるこだわりです。
味と人が紡ぐ物語のある喫茶店

『くるみ』の甘味のレシピは、創業当時から味の伝承は口伝え。現在でも初代オーナーの友人であるベテランスタッフが厨房に立ち続け、若い世代へと受け継がれています。

目まぐるしく変わる観光地・鎌倉の中にあって、“変わらないこと”が最大の魅力になる、そんな場所が、ここ『くるみ』にあります。
(撮影・文◎亀井亜衣子)
●SHOP INFO
店名:鎌倉甘味処くるみ
住:神奈川県 鎌倉市雪ノ下1丁目5-38
営:12:00〜17:00(L.O.16:30)
休:不定休(年末年始、荒天時は休業)
https://kamakura-kurumi.jp/