中国茶にハマり、買い集めた茶器がいつしか酒器となりにけり。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りやコレクション、あのお店のセレクション。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

中国茶にハマり、買い集めた茶器がいつしか酒器となりにけり。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第18献は、ウエディングドレスブランド『Chica Hanashima』デザイナーの花嶋千賀さんにご登場いただいての酒器トーーク。かつて、中国茶の世界にどっぷりハマり、中国茶器を買い集めた話から始まる。当コラムではこれまでもワイングラスやコブレット、ショットグラス、蕎麦猪口など、見立て使いの酒器をいくつか拝見してきた。薄々お気づきかもしれないが、中国茶器が気づけば酒器にとってかわっていたという話です。

「もう何年も前になりますが、年2ペースで香港へ出向く仕事が10数年続いていました。その当時、仕事の合間に立ち寄っていた中国茶サロンがあって、通っているうちに中国茶の世界にどっぷりハマりまして」

 で、茶器を買い集め始めたんですね。中国茶だけでなく、抹茶といい紅茶といい、味わうのが一番シンプルだが、それに付随する道具にハマってしまうのはよ~くわかる。千賀さんいわく「だって、可愛いんだもん。おもちゃみたいでしょ」。これに尽きる。実際、中国茶の杯はおままごとのようなサイズだし、あれこれ拝見すると確かに可愛い。とくに蝶モチーフがお気に入りで、見つけると迷わず手に取るという。

「最初は茶葉に凝って産地別に楽しんだり、やたらと高級な茶葉を奮発したりしました。丁寧に淹れてくれるということもありますが、本当に美味しい。茶葉に凝り出すと自然と茶器にも興味が湧いて、気づいたら店でも始めるのかというくらい集まっていて。挙句、店仕様のサービスワゴンにも手を出そうとしたり、今思うとあの頃の自分の中国茶ブームは異常でした。ワゴンは寸前のところでスタッフに止められましたけどね(笑)。

 当時、アトリエのスタッフにもお茶を振る舞い、聞香杯の手ほどきをして遊んでいました。途中から悠長な遊びに誰もつきあってくれなくなって(苦笑)、自分も忙しくなるにつれ、中国茶から遠ざかっていました」

(※聞香杯…飲杯とセットになっていることが多く、最初に聞香杯にお茶を注ぎ、飲杯に移した後、空になった聞香杯を鼻にあてて香りを楽しむための器。香りを逃さないよう、飲杯に比べて聞香杯は細長い)

 そして、いつしか茶器が酒器に? 「そもそも形状がお猪口に近いですよね。とくに聞香杯は指にしっくりフィットするし、飲杯は飲杯で小さな湯のみのイメージですが、これまたチビチビ嗜むのにちょうどいい。

 グリップ感もそうですが、中国茶にハマっている頃は杯の飲み口の薄さに感動しきりでした。唇に触れているのかどうかというくらいの薄さ。お茶がすーっと入ってくる感覚がまるで違う。これはお酒で試しても同じ感覚で心地いいんですよね。ぽってりしたものよりも口が薄めのカップが好きな傾向はあります」

 さて、見立て遊びはそのギャップも面白みのひとつだが、聞香杯、飲杯ともに最初からお猪口ライクで、お酒を注がれるのを待っているような顔をしている。この酒器で、あ、茶器で、あ、どっちだ。まあ、どっちでもいいか。どんなお酒を味わっているのだろう。

「職業柄、ブライダルフェアなどで地方をまわることもあり、各地の主催者さんが美味しい地酒を用意してくださって、そこで美味しい日本酒を覚えました。日本酒だけでなく焼酎も。鹿児島で振る舞われた爆弾とかいうお酒、あれは強烈でした。

 美味しかった記憶だけ残っていて銘柄はすぐ忘れちゃうんですけど(笑)。あとは、若かりし頃にプライベートで訪れた新潟・寺泊で、ご縁があって地元の方から越乃景虎をいただいたんです。美味しいお酒はたくさんありますが、その時のエピソードが忘れられなくて思い出込みで景虎は個人的に不動のラブ酒(笑)」

 書けないことも多く、もどかしさが募る酒器トーーク。紅ズワイガニを食べたいがためだけに訪れた新潟・寺泊でのエピソードがおもろすぎて、それを肴に景虎が飲みたくなっている筆者なのであった。おもしろエピソードも酒器も肴になるけれど、ズワイガニがあれば言うことなし。

【酒器FILE 013】 愛用者:花嶋千賀(「Chica Hanashima」デザイナー) *口径45mm *高さ47mm *容量48cc *重量23g
【酒器FILE 013】
愛用者:花嶋千賀(「Chica Hanashima」デザイナー)
*口径45mm *高さ47mm *容量48cc *重量23g

●DATA

Chica Hanashima

Chica Hanashima
ウィットに富んだ仕掛けとクチュールテクニックでブライダルシーンを自在に進化させるデザイナー花嶋千賀のドレスサロン。新鮮で大胆な生地づかい、アーティスティックな感性が際立つ美しいラインのドレスは自分のスタイルを持った女性に支持されている。ブライダルの世界を超越したエキセントリックなコンセプトビジュアルも毎回見応えあり。10月22日には東京ステーションホテル(1Fバンケットエリア)で開催される「ウエディングマーケット」に参加。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。