若き酒蔵営業マンが100均グラスに注いだ銘酒は数知れず。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるのが、あの人のお気に入りやコレクション。あのお店のセレクションも見てみたくなる。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

若き酒蔵営業マンが100均グラスに注いだ銘酒は数知れず。【酒器も肴のうち】
食楽web

 『酒器も肴のうち』第16献は、コラム始まって以来初の蔵元関係者。ご登場いただいたのは、創業130年を越える新潟の酒蔵「宝山酒造」の営業担当・若松秀徳さん。

 酒器トークもさることながら、蔵元の従業員ならではのあんな話やこんな話が聞けるとは!(どんな話?)。脱線しないわけがない。いや、これはもう脱線とは言わない。蔵元さんとの酒器トークは、どう転がっても本題だ(そうなのか?)。

 東京農業大学醸造科学科出身の若松さん。学生の頃から、お酒の環境には恵まれていたという。「学祭ともなると学科ならではというか、OBやOGの方からしこたまお酒が届くんですよね。なかにはレアなものもあったりして。

 あとは、個人的に気になるお酒があると、勉強という名目でチェックしたりするんですが、お金もそんなになかったし、お店より家飲みが多かったです」

「タイプの異なる酒器を3種持ってきました」

 さて、今回お持ちいただいた酒器は3種。こちらが特にリクエストしたわけではないのに、酒器エピソードのバリエーションを見越したかのような3種。さすがは酒業界に携わる方。ありがとうございます。助かります! さっそく、冷酒がしっくりきそうなクリアなグラスから。

「学生当時はお水やお茶を飲むコップしか持っていなかったので、家飲み用のストレート型の酒器が欲しくて、まず最初に買ったのがコレ。100均です」

 えっ!? まじっすか! 量産品としては意外とまとも。100均も侮れない。「はい。冷酒をよく飲んでいたし、生酒も好きで、すっきり飲みたいなと思って、手っ取り早く買い求めました」

 当コラムではこれまでさまざまな酒器を紹介してきた。さすがに100均の酒器は出るまいと思っていたら、今回あっさり登場してしまった。

 とはいえ、研究熱心な醸造科学科専攻の学生のことだ。100均のグラスに数々の銘酒を注いできたのだろうと想像する。グラス自身もいい経験を積んで、100均なのにどこか誇らしげに見える、100均なのに…。って、100均、100均としつこくてすいません。そして、いまもなお、現役選手。

 続いて、ちょっと渋めの飴色のぐい飲み。実際持ってみるととても軽い。口は薄くて、つるっとした質感。もしやこれも100均?(そうじゃなかったら失礼極まりない)。

「あ、これはどうかな。重厚な陶芸の類ではないですね(笑)。酒販店主催の利き酒イベントに参加したときのものです。3種類ほどあって好きなものを選べたんですが、落ち着いた色合いと、握ってみたら親指にフィットする感覚もちょうどよくて。最近は自宅でも燗酒をたしなむようになったので、すっかり燗酒用のレギュラー選手に」

 確かに燗酒には特別なぐい飲みを使いたくなる。特別とはいってもスペシャルなということではなく、いつもとは違う佇まいのもの。どちらかというと少々和顏のぐい飲みで一献傾けたくなるから不思議だ。あれ? そんなことない?

「あとは、皆さん一緒だと思いますが、日本酒のイベントに参加するとこの手のお猪口はどんどん増える一方なんです。参加した記念になりますが実際そんなにあってもね、ということもありますよね」

 そうそう、よーくわかります。統一性のないお猪口が徐々にたまっていく。我が家でも捨てるに捨てられなくて、収拾がつかなくなっている。

 そして、残るもうひとつは錫の酒器。いよいよ本命か。錫製のぐい飲みは、筆者のまわりの酒好きたち羨望の的だ。若松さんが愛用している錫のぐい飲みのこと、そして若松さんが宝山酒造の営業職に就いたエピソードなども交えながらの酒器トーーク。この続きは、また来週。

●INFORMATION

宝山酒造

宝山酒造

新潟の奥座敷と呼ばれる岩室温泉と新潟屈指のパワースポット弥彦神社の中間にある小さな酒蔵。昔ながらの伝統的な酒造りを守り続ける一方で、若き杜氏らが新たに醸す日本酒も話題に。リリースされたばかりの今年のひやおろしは初の試みとして新潟酵母を使用。「昨年と比べて香りがよく、すっきりと仕上がっている」(若松さん談)。

●取材協力

方舟 大吟醸 しずく

方舟 大吟醸 しずく

銀座で北陸料理と地酒が堪能できる本格会席料理店(全室個室)。日本酒は富山、福井、石川、新潟、長野の5県にこだわり、セラーの在庫は常時250種以上。「宝山酒造」の大吟醸、純米酒をはじめ、新潟県産自然栽培米山田錦を使用し「宝山酒造」が醸した方舟PB純米大吟醸「宝穂」が味わえる。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。