ラーメン官僚が太鼓判を押す兵庫県の本当にウマい店「麺舎ヒゲイヌ」

尼崎市の名店『麺舎ヒゲイヌ』

 今回ご紹介するのは、尼崎市の『麺舎ヒゲイヌ』。

 同店がオープンしたのは2009年8月8日。2000年代は、神戸市、西宮市、尼崎市、伊丹市など、兵庫県の瀬戸内海沿岸部に、次代を担う新世代のラーメン店が続々と開業し始めた時期だ。
 
 例えば、神戸市の『麺道しゅはり』(2005年開業)、『弘雅流製麺』(2008年開業)、西宮市の『たんろん』(2008年開業)、伊丹市の『がふうあん』(2009年開業)といったところが挙げられる。
 
 なお、兵庫のラーメンシーンは、2010年以降、隣県・大阪府のラーメンシーンの盛り上がりと歩調を合わせるかのように、さらなる盛り上がりを見せる。

『らーめん会』(2010年創業)、『らーめん専門和海』(2011年開業)、『中華そば麦右衛門』(2013年創業)、『つけ麺繁田』(2015年開業)、『ぶたのほし』(2018年創業)など、今をときめく実力店の大半は2010年以降の創業なので、まさに、『ヒゲイヌ』が産声を上げた頃は、兵庫のラーメンシーンが変革を遂げ始めた矢先とでも言うべき時期にあたる。

 事実、尼崎に『麺舎ヒゲイヌ』がオープンし、当時の兵庫県においては非常に珍しい「牛スジつけ麺」を提供し始めた時の、当時のラーメン界の沸き方は相当なものがあった。
 
 さて、そんな兵庫ラーメンシーン隆盛の黎明期に、黒船のように燦然と降臨した『麺舎ヒゲイヌ』だが、今もなお尼崎を代表する実力店のひとつとして健在。

 同店が提供するのは、「牛スジつけ麺」、「カレーつけ麺」、「煮干塩ラーメン」、「醤油ラーメン」など。2025年4月現在、“ラーメン”を作る日と“つけ麺”を作る日を分けているので、同店が掲示するカレンダーで、お目当ての品が提供されるかどうかを確認してから足を運んでもらいたい。

 前回、私は「牛スジつけ麺」を戴いたので、今回は、“ラーメン”を出す日に訪問し、「煮干塩ラーメン」を実食させていただいた。

 卓上に供された「煮干塩」は、深い黄金色に輝く清湯スープが、視覚的にも実に鮮烈。スープをすすれば、ほんのりと穏やかな煮干しの香りが鼻腔を心地良くくすぐり、柔らかな煮干しの滋味が味覚中枢を優しく刺激。

「煮干塩」
「煮干塩」

 香味野菜のナチュラルな甘みと、柚子の清冽な香りも、スープの味を支え抜く確たる土台として、慎ましやかながらも明確に存在を主張。食べ始めから食べ終わりまで、レンゲを持つ手が止まることはなかった。

 京都の名門製麺所『麺屋棣鄂(ていがく)』の麺も、スープを過不足なく持ち上げ、着実に口元へと運び込んでくれる、このスープの名パートナー。

 強烈なインパクトこそあまり感じないが、毎日食べ続けても飽きが来ないような普遍性を持ち合わせている。こんな1杯を紡ぎ出せる同店だからこそ、15年以上の長きにわたり、第一線に立ち続けることができるのだろう。

●SHOP INFO

麺舎ヒゲイヌ

住:兵庫県尼崎市長洲本通1-7-5
席数:カウンター10席

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。