ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるのが、あの人のお気に入りやコレクション。あのお店のセレクションも見てみたくなる。酒器好きでお酒好きライターによる酒器折々、酒器こもごも。

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】
食楽web

「何年か前の夏、フランスのノルマンディでバカンスを過ごした時、片田舎のブロカントで見つけたものです。その頃、ワインを愛飲していて、普段使いにちょうどいいかなと思って。小さくてぽってりしたグラスなので日本酒でもいける感じ」

「酒器も肴のうち」第9献。今回ご登場いただくのは、レッグウェアブランド「Ayame」のデザイナー阿賀岡 恵さん。愛用しているという酒器は、おっしゃる通り、もれなくカジュアルにワインを楽しめそうなグラスなのだが、「雰囲気が出るかな」と言って日本酒とおつまみを用意してくださった。ありがたい。いろんな意味でありがたい。なぜなら当コラムは日本酒を飲むときにどんな酒器を使う? というのが本テーマだから。ときどき脱線することもあるけれど。

「蚤の市でキッチングッズを見るのが好きなんです」

 東京とロンドンを活動拠点においてスタートした「Ayame」も今年で創立10周年。展示会などでヨーロッパに出向いていた頃に出会って親しくなった人も多く、滞在中、仕事関係者や知り合いなどの自宅に招かれることもたびたびあったという。

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】

「彼らは日常生活の中でテーブルをドレスアップさせるセンスに長けていて、ゲストを招待するときも特別にわざわざ何かを揃えて飾るわけではなく、家にあるもので上手に演出するんですよね。あとはせいぜいお花を買うくらい。その感覚が素敵に映りました。

 ノルマンディで一緒に過ごした友人もそうした集まりで出会って、自身も蚤の市に出店するほどのマニア。有名な蚤の市はプロ向けで日本人バイヤーも多いですが、ノルマンディ中部にある片田舎の蚤の市では日本人は見かけませんでした。出店も雑然としていていろんなものがしっちゃかめっちゃかで、ある意味とても蚤の市らしくて(笑)。

 以前から蚤の市でキッチングッズを見てまわるのが好きで、とくにガラス製品をチェックしていました。このグラスはふと目に入って気になって、なにか強いインスピレーションが働いたというわけでもなかったのに、使うたびに愛着がじわじわ湧いてくるんですよね」

 ありますあります! 使うほどに飲むほどに愛着の湧く酒器が筆者にもありますとも! 頷きながら、たくましい想像力でノルマンディの片田舎の蚤の市に想いを馳せてみる。何を隠そう、ここだけの話、筆者がいまフランスで一番行きたいところはパリでもなく南仏でもなく、そう、ノルマンディ。シードル、カルヴァドス、サヴィニャック、ノルマンディ。当面予定はないが、阿賀岡さんのバカンスの思い出話を肴にすでに脳内一献。酒器は肴になると言ったがそれ以前の話だ。脱線しました、すいません。

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】

「このグラス、よく見ると気泡が入っているので良品ではないと思います。蚤の市には真っ当なアンティークもあるけど、それには満たないもの、興味のない人にはただのガラクタと思えるものが混在しています。ただ、素朴で価値のないものでも自分が気に入ればいいというものの考え方や、長く使い続けて大事にするという感覚は、ヨーロッパで交友した人たちと共感できた部分かもしれないです」

 アンティークの定義もあるよなないよなで、一説には製造から100年を経過したものともいう。ブロカント(古道具とか古道具屋の意味)のように、アンティークまではいかないけれど、新品にはない味わいがある古いものを大事に使うことが根づいている暮らしはとても素敵だ。

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】

 ノルマンディ、蚤の市、ブロカント、そしてバカンス。素敵な響きに酔いしれていると、グラスにお酒が注がれた。取引先のお客さまからいただいたという新潟のお酒をご相伴する。自然とおつまみにも手が伸び、気づけばノルマンディからイギリスの蚤の市にまで話が及んで、酒器トークのはずが蚤の市トークになっていた。挙句、UK Pyrexの話題で盛り上がり、酒器の話はどこへやら。脱線しっぱなしだったが、それもまた肴になるのだった。

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】
【酒器FILE 006】
愛用者:阿賀岡 恵(「Ayame」デザイナー)
*口径55mm *高さ110mm *容量110cc *重量170g

●DATA

ノルマンディのブロカントで出会ったぽってりワイングラス【酒器も肴のうち】

Ayame
独創的な色づかいと編み地表現を日本ならではの繊細なプロダクトとして仕上げ、世界中に発信するレッグウェアブランド。海外での取り扱いはもとより、国内は北海道から九州まで。「今までに見たことのない新しい編表現を探求した」色×色、柄×柄が織りなすAyameの世界観をぜひ足元で楽しんでいただきたい。8月中旬、新シーズンの商品がオンラインショップでリリースされる。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。