
福岡県の志免町で1973年に創業し、50年以上続く「しめ海産(元 大成丸)」。冬は牡蠣を中心に海の幸を届けてきた老舗は、二代目となった孫の代から夏に青果販売も加わり、町の台所として親しまれています。実際に私も毎冬、ここで牡蠣を買う一人であり、その濃厚な味わいに魅了され続けてきました。
福岡空港から車で10分ほどの志免町。かつて炭鉱の町として栄えた歴史を持ち、今は住宅地が広がるこの町で『しめ海産』は1973年に創業しました。
始まりは祖父母によるトラック販売。福岡市・大橋駅前や志免の町でみかんやスイカを売り歩いた後、親戚の船の名前を受け継いで「大成丸海産」と名乗り、牡蠣販売を本格化させたといいます。北九州の門司港や長崎・佐世保、有明海など、その時々に“もっともおいしい”と感じた産地から牡蠣を仕入れ、やがて志免東の現在地に店舗を構え、冬になると町の人々が集まる老舗として親しまれるように。

祖父母から孫へ。二代目の決意
祖父母が高齢となり廃業の話が持ち上がった際には、お客様から「どうか閉めないでほしい」という声が数多く寄せられていたといいます。その声に背中を押され、孫が二代目として家業を継ぐことを決意。会社員時代に店長として培った経験を生かし、安定を手放してでも祖父母の想いを守る道を選びました。祖父母が命名した『しめ海産』の屋号を掲げ、現在も新たな一歩を踏み出しています。

冬の看板商品、牡蠣と海の幸
取材時に二代目店主が「その時食べて一番おいしいと感じた牡蠣を仕入れるようにしています」と語ってくれたように、現在の主力は有明海産の養殖牡蠣。店内には大きな生け簀があり、牡蠣や魚介を生きたまま管理。大ぶりから小ぶりまで揃い、どれも身が詰まって旨みが濃厚です。
福岡では冬の風物詩として「糸島の牡蠣小屋」が広く知られていますが、しめ海産にはその道のプロが“本当においしい”と判断した牡蠣だけが並びます。もちろん、糸島の牡蠣も格別ですが、長年培った目利きで選ばれた牡蠣を、わざわざ遠出をしなくても自宅で気軽に楽しめる――それがこの店ならではの魅力です。


普段の夕食から年末年始のごちそうまで幅広く支持され、鮮魚を扱う飲食店の料理人も仕入れに訪れるほど。さらに竹崎カニ、シャコ、ヒオウギ貝、さざえ、テナガダコ、マジャクなど珍しい魚介も並び、冬の海の豊かさを町に届けています。
![活きたまま並ぶ竹崎カニ。鮮度抜群のまま持ち帰れるのが魅力 [食楽web]](https://cdn.asagei.com/syokuraku/uploads/2025/11/20251206-shimekaisan05.jpg)

新たな挑戦へ。季節の青果販売で志免町の暮らしを支える
かつては海産物が少ない夏場は休業していましたが、二代目となった孫は「通年で地域に役立つ店に」と青果販売をスタート。夏には熊本・植木産のスイカを仕入れ、産地と味にこだわった甘さで大変好評を博しました。
そして秋には、果物の名産地・うきはから届く「豊水梨」、熊本・山鹿産の大粒「利平栗」、ほくほくとした里芋や甘みの強い三角みかんなど、旬の味覚が店頭に並びます。梨は贈答用の大玉から家庭向けの中玉まで揃い、利平栗や里芋は食卓の主役にもなる存在。冬の牡蠣に加え、夏はスイカ、秋は梨や栗と、季節ごとに表情を変えながら志免町の暮らしを支える存在へと進化しています。

地域とのつながりと未来
しめ海産には、子どもの頃から牡蠣を買いに来ていた常連が大人になっても通い続けるなど、世代を超えたつながりがあります。祭りや祝い事、年末年始の食卓に欠かせない存在として「続けてくれてありがとう」という声が寄せられることもしばしば。
二代目店主はオンライン販売の準備も進めており、「遠方の方や、店に入りづらいと感じる方にも気軽に楽しんでほしい」と語ります。祖父母から受け継いだ“牡蠣と正直に向き合う姿勢”を守りながら、福岡県志免町の台所として次の50年へ歩みを進めています。
筆者も地元の一人として、お店の存在がこれからも続いてほしいと願わずにはいられません。
(撮影・文◎asako、しめ海産提供)
●SHOP INFO
しめ海産(元 大成丸海産)
住:福岡県糟屋郡志免町志免東1-3-3
TEL:092-937-3996
営:10:00〜18:00
休:月曜
https://www.instagram.com/sime.kaisan/
●著者プロフィール
asako
福岡在住のWEBディレクター。フードアナリスト3級。大手グルメメディアでの店舗支援・情報発信の経験を活かし、1歳と5歳の子育てをしながら、地方創生食文化大使として福岡・佐賀の食の魅力や親子スポットをInstagramで気ままに紹介しています。
https://www.instagram.com/imasanok009/
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