「お友達がつくった器です。といっても、陶芸家の」
日本酒のイメージがみじんもない綾乃さんだが、日本酒を飲む機会はゼロではない。「日本酒、たまに飲みますよ。お寿司屋さんやお蕎麦やさんで。自分のお店で扱うのは主にワインですが、おつきあいのある蔵元さんもいて、そこのお酒が手に入ったときはお店でお出しすることもあります。蔵元さんからいただいた小さな盃でチビチビと楽しんでもらったりしています」
日本酒の話題になったところで、こちらはひと安心。さっそく、お気に入りの酒器を拝見させていただくことに。その前に、過去の当コラムを読んでもらうとわかるが、酒器のサイズ感やグリップ感をお伝えすべく、実際どのように扱っているのかを撮影している。いつものように「持ってもらえますか?」というと、それに応じたポーズがこちら。「いかに楽しんでいただくか」。サービス精神旺盛な綾乃さんのポリシーはこんなところにも出る。
綾乃さんが手にしているのは「お友達である陶芸作家・加藤巧さんのもの。お店でも昨年、一昨年と2回ほど個展を開催して、そのときに手に入れました。高校生の頃、レコードショップに入り浸っていた時期があって、加藤さんはそのお店のスタッフでした。早い話が音楽つながり!」
随分はしょられた気もするが続けよう。こちらの酒器。蕎麦猪口と言い切りたい形状とサイズだが、シンプルで使い勝手がよさそうだ。品のある白釉の肌合いはどことなくレオナール・フジタの乳白色を連想させるが、そこまでクリーム感は強くない。言葉で白を表現するのはとても難しい。きっと作家も同じ思いで白い釉薬と向き合っているのでは……と、まだ見ぬ加藤さんの作陶現場を妄想する(これ、いつもの筆者のクセです)。ほかにはどんなものを手がけているのだろうかなど、いろいろ気になってくる。筆者の場合、こうした時間も酒の肴になる。
「お酒はもちろん、リアルに蕎麦猪口としても使いますし、コーヒーを飲むときにも使いますよ」。出ました! 蕎麦猪口オールマイティ!
「このサイズだとお酒をぐいぐい飲めるのでラク。小さなぐい呑は飲むたびに何度も注がないといけないから、ちょっと面倒(笑)。だけど、小さいからこそたびたび注ぐということが大事なんですよね。相手がいたら、それこそ注ぎ合う。注ぎ合う文化ですよね、ぐい呑やお猪口って」と、綾乃さん。「まさに!」と合点する筆者。気遣うことのない手酌酒もよろしいが、差しつ差されつがいいときもある。日本酒も深いが、酒器も同様に深い。
ところで、加藤さんの白釉猪口が二個で、別な猪口もふたつある。「金継ぎ風の蕎麦猪口は、お店の7周年のお祝いでクライン・ダイサム・アーキテクツのアストリッド・クラインさんとマーク・ダイサムさんからいただいたものです」。建築に興味をお持ちの方ならばご存知かもしれないが、クライン・ダイサム・アーキテクツとは建築家ユニット。「建築好きということもあってご縁がつながって、お店にもよくいらしてくださる。桐箱入りで、ついつい大事にしまったままなんですが、使わなくっちゃダメですね」
網目文様に金継ぎ仕立ての蕎麦猪口は、長崎県波佐見町にある陶磁器ブランドのもの。伝統的な文様には縁起のいいものが多く、網目文様もしかり。網目の網はそのまま、幸福を「すくいとるもの」とされ、同じ文様が延々と続いていることから「永遠に続くもの」という意味合いもあり、商売繁盛にもつながる。そのいわれをくみ取って選んだギフトかどうかは送り主のみぞ知るところだが、実は日本のことをよく知っているのは外国人の方なのかも。こちらの陶磁器ブランドについては改めてご紹介したい。
ひとしきり酒器トークが終わるやいなや、加藤さん作の猪口に白ワインが注がれた。シンプルで美しい白釉猪口は飲み口も細くて、どうやらワインも楽しませてくれそうだ。
昼はカフェ、夜はレストラン。ワインバーとしての顔も持つ。テーマは「笑顔を街へ、笑顔を世界へ。出会いこそすべて」。フォトジェニックなフレンチベースのひと皿、チーズプラトーなど細部に至るまで心踊るサービスが尽きない。「フードビジネスはエンターテインメント。いかに楽しんでもらうか」を追求し続け、居心地がよくて楽しい時間を提供すべく、西麻布で独立。移転を経て、6月で8周年を迎えた。ランチ3,800円は予約制。それ以外のカジュアルメニューが楽しめる日も。ディナーは6,000円、8,000円コースほか、予算とリクエストにも応じる。1階はカウンター10席、テーブル20席。3階には30名収容OKのパーティルームもあり。ケータリングサービスも人気。
●SHOP INFO
住:東京都港区西麻布2-10-1 西麻布アジアビル1F
TEL:080-4689-9059
営:12:00~17:00(カフェ)18:00~22:00L.O.(コース)~24:00L.O. (アラカルト&ドリンク)
休:不定休(ケータリングで不在の場合もあり)
Facebook「Plate tokyo プレート トキオ」
●著者プロフィール
取材・文/笹森ゆうみ
ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。