麻辣連盟総裁に訊く! “よだれが出るほど美味しい”本場四川の「よだれ鶏」の魅力とは?

ラー油まみれの鶏料理

『元祖皇帝口水鶏_陳家私菜』の「よだれ鶏」は、過去2回の「四川フェス」で最高売上を記録
『元祖皇帝口水鶏_陳家私菜』の「よだれ鶏」は、過去2回の「四川フェス」で最高売上を記録

「よだれ鶏」の由来は、中国を代表する文筆家の一人、郭沫若氏が著作「典波曲(典は貝へん)」の中で、四川省楽山に住んでいた少年時代に食べた故郷の「白カン鶏(バイカンジー)」=口水鶏を思い出し、

「茹であがった白い鶏肉に、赤い油辣子(ラー油)、今思い出してもよだれがでる」

 と書いたのが始まりと言われています。ちなみに「白カン鶏(バイカンジー)」とは、鶏を刻んで調味料を和えて食べる料理全般を指し、現地では「口水鶏」を「白カン鶏」を呼ぶことも多いんです。

 では、「よだれ鶏」はどんな料理かというと、茹でた鶏に四川名物の油辣子(ラー油)をたっぷりとかけ、醤油、塩、花椒などのスパイスで味つけをした冷菜です。食事の最初に食べると、猛烈に食欲がわきます。私も思い出しただけで、よだれが出るくらい美味しい料理です。

よだれ鶏は四川省成都では棒棒鶏?

『香辣妹子』(板橋)のよだれ鶏は、自家製調味料を使った本場の味です
『香辣妹子』(板橋)のよだれ鶏は、自家製調味料を使った本場の味です

 しかし、四川省成都にいた長く住んでいた私は、じつは現地でよだれ鶏を食べたことはありませんでした。よく食べていたのは「棒棒鶏(バンバンジー)」で、これがほぼ「よだれ鶏」と一緒なんです。とはいえ、日本で食べるゴマダレ味の棒棒鶏とは全く違います。

 四川の「棒棒鶏」は、よだれ鶏同様、火を通した鶏肉を一口サイズに切り、大量のラー油をベースにし、各調味料で味付けをする冷菜。口から火を噴くほど辛くて痺れる麻辣味です。

 ではなぜ、同じ中国でも「口水鶏(コウシュイジー)」と「棒棒鶏(バンバンジー)という2つの名前があるのか。

『四川料理 天府舫』(西新宿)の「棒棒鶏」。ラー油が決め手の激辛ソースを合えた看板メニューです。
『四川料理 天府舫』(西新宿)の「棒棒鶏」。ラー油が決め手の激辛ソースを合えた看板メニューです。

「棒棒鶏」のほうは、丸ごと茹でた鶏を切る際に棒で叩いてから包丁で切る。その作り方から「棒棒鶏」という名前が付いたようです。つまり、よだれ鶏とは切り方の違いだけ。

 現在、成都市ではこのような棍棒で叩いて棒棒鶏を作っているお店はほとんどなくなっていますが、発祥の地と呼ばれる四川省雅安エイ経県に行けば、昔ながらの棒棒鶏が食べられます。つまり、今となっては棒棒鶏もよだれ鶏もあまり変わらないのです。

 じつは、この「よだれ鶏と棒棒鶏の違い」については、四川料理好きでよく議論になり、いろいろな意見があるのも事実。ただ、やっぱり僕の見解だと、よだれ鶏と棒棒鶏はほぼ同じ味です。

 そして、日本では棒棒鶏が先に有名になっていますが、これは担担麺と一緒で、辛さの免疫がない日本人にこのラー油まみれの料理は到底受け入れられなかったために、食べやすいようにアレンジした結果、ゴマダレ風味に落ち着いたのではと推測しています。

私が成都でよく食べていた『老胡記』の「棒棒鶏」。 ゴマダレの味は一切なく、シンプルなラー油ベースの味つけが本家本元の棒棒鶏です
私が成都でよく食べていた『老胡記』の「棒棒鶏」。 ゴマダレの味は一切なく、シンプルなラー油ベースの味つけが本家本元の棒棒鶏です