日本酒のお供にぴったりな「へしこ」って何? 福井県産のへしこ12種類を食べ比べてみた

口承で伝わる伝統的な製法を理論で解明

 へしこ作りで主に用いられるのはサバです。サバの脂がのる秋口に生のマサバを背開きにして7日間塩漬けにし、一度引き上げてから7か月間ぬかにつけるとへしこが完成します。

タンパク質が酵素のチカラで分解されてペプチドになり、さらに分解されるとアミノ酸になる。このアミノ酸は旨みの成分のもとで、生のサバが旨みの強い発酵食品に変身する
タンパク質が酵素のチカラで分解されてペプチドになり、さらに分解されるとアミノ酸になる。このアミノ酸は旨みの成分のもとで、生のサバが旨みの強い発酵食品に変身する

 とはいえ、あくまでも伝統的な発酵食品なので、職人さんたちは“感覚”を頼りに作っています。そんな感覚的な製法を福井県立若狭高校海洋科学科教諭の小坂康之さんが数値に置き換えて、へしこ作りのメカニズムを解明しているそうです。

福井県のアンテナショップ「ふくい291」で昨夏開催されたへしこ講座では、福井県立若狭高校海洋科学科教諭の小坂康之さんが登壇。へしこのメカニズムなどを研究し、以前は東京海洋大学と福井県立大学で非常勤講師も務めていた
福井県のアンテナショップ「ふくい291」で昨夏開催されたへしこ講座では、福井県立若狭高校海洋科学科教諭の小坂康之さんが登壇。へしこのメカニズムなどを研究し、以前は東京海洋大学と福井県立大学で非常勤講師も務めていた

 たとえば、サバは背開きにしていますが、どうして腹開きではないのか? 実際に小坂さんが腹開きで作ると身が崩れてしまったそうで、背開きにすると身が崩れるのを防げるということがわかりました。ほかにも、職人さんの言う「両手でごっぽりの塩」がどれくらいの量なのかを実際に計ると、魚体の約20%だったことや、平らではなく少し斜めにして漬けるのは上手に水を抜くための工夫だったことなどもわかったそうです。

 さらに、7か月ぬか漬けにするのは、この期間で変化する水分、塩分、有機酸量、良くない菌やカビの量が理想的だったからだそうです。諸々の研究によって、理想的なへしこを作るには「加塩量が魚体の20%の重量」「30℃以上で発酵」「ぬか漬けするときに塩汁を使う」「6~7か月のぬか漬けが必要」だという結果が出ました。

へしこエキスをラットに投与すると、2~4時間後に血圧が下がったという研究結果も出ている
へしこエキスをラットに投与すると、2~4時間後に血圧が下がったという研究結果も出ている

 研究段階ではあるものの、へしこに含まれるペプチドが血圧を下げる効果があるのだとか。また、抗酸化作用も備えるなど、アンチエイジングにも効果的な食品だといえそうです。血圧を高める塩分を含んだ食品でありながら、身体にいいというのは不思議ですね。

12種類のへしこはどれも違ってどれもいい!

 今回試食したへしこは全部で12種類。小坂さんによると、おいしいへしこは「身が飴色や褐色になったもの」を選ぶといいのだそう。ただし、製造過程で醤油を使う業者もあり、昔ながらの塩と糠だけを使ったへしこは最近少ないそうです。

12種類のへしこを福井の日本酒と一緒に試食した。サバだけでなくイワシ、シイラ、フグ、イカを使ったへしこも含まれている
12種類のへしこを福井の日本酒と一緒に試食した。サバだけでなくイワシ、シイラ、フグ、イカを使ったへしこも含まれている

 試食したへしこは下記のとおり。最近は国産のサバを使ったへしこでも、福井産のサバはほとんど使わないそうです。

1.国産サバ(生)・日向へしこ工房勘兵衛/【原材料】サバ、ぬか、塩、みりん、焼酎、醤油、砂糖、酒粕、唐辛子
2.国産サバ(焼)・日向へしこ工房勘兵衛/原材料】サバ、ぬか、塩、みりん、焼酎、醤油、砂糖、酒粕、唐辛子
3.国産サバ(生)・民宿 かどの/【原材料】サバ、ぬか、塩
4.国産サバ(焼)・民宿 かどの/【原材料】サバ、ぬか、塩
5.外国産サバ(生)・海の宿 さへい/【原材料】サバ、ぬか、塩、米麹、唐辛子
6.外国産サバ(焼)・海の宿 さへい/【原材料】サバ、ぬか、塩、米麹、唐辛子
7.外国産イワシ(焼)・田村長/【原材料】イワシ、ぬか、塩、唐辛子
8.フグ(生)・若狭海遊バザール 千鳥苑/【原材料】フグ、塩、ぬか、醤油(大豆・小麦)、醸造アルコール、酒粕、唐辛子、調味料(アミノ酸など)
9.国産シイラ(生)・越廻漁業協同組合 ぬかちゃんグループ/【原材料】シイラ、ぬか、塩、酒粕、唐辛子
10.国産イカ(生)・越廻漁業協同組合 ぬかちゃんグループ/【原材料】スルメイカ、塩、唐辛子
11.国産サバ(生)・佐助/【原材料】サバ、米麹、米、酢
12.国産イカ(生)・越廻漁業協同組合 ぬかちゃんグループ/【原材料】イカ、ぬか、塩、唐辛子、オリーブ油、にんにく、パプリカ色素、香辛料抽出物

 大きく分けて、生か焼きか、醤油の有無、国産か外国産かといった点に違いがあります。いずれも個人の味の好みに左右されると思うので優劣は付けられませんが、「国産サバで醤油を使わない生のへしこ」は一度食べてみてほしいです。

 生のへしこはしっとり、焼きは香ばしさが加わるのが魅力。醤油を使ったものと使わないものだと、使わないほうが味に丸みがある気はしますが、醤油を使うとごはんにも合いそうだと思いました。国産か外国産かというのは非常に見分け方が難しく、外国産のほうが脂が多くて身がしっとりしている印象です。

 へしこの味わいを表現するのは非常に難しいところ。へしこは塩気が強いので、単体でたくさん食べるものではありません。青魚特有の臭みは一切なく、魚の旨みがぎゅっと詰まっています。“和風アンチョビ”と言えばイメージしやすいかもしれません。実際に、オリーブオイルに漬け込んだへしこも登場しています。

 サバ以外のへしこも想像以上においしくて、イワシのほどよい苦味やフグの身の豊かな旨み、洋風にアレンジしたイカもお気に入り。シイラのへしこは越廻漁業協同組合 ぬかちゃんグループでしか作っておらず、身を噛むほどに酒粕の香りが口のなかにふわっと広がるのが良かったです。

へしこは真空パックで売られているものが多い。地元のスーパーでは発泡スチロールのトレイに入って売られているものもある
へしこは真空パックで売られているものが多い。地元のスーパーでは発泡スチロールのトレイに入って売られているものもある

 最近では居酒屋などでもたまにへしこを見かけますが、それらは石川や丹後のものが多いそうえす。生産量の少ない福井のレアなへしこが気になる人は、福井のアンテナショップに足を運んでみるのがおすすめです!

(取材・文◎今西絢美)

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