小麦高騰で注目の「ライスバーガー」の元祖・モスバーガーの人に知られざる誕生秘話を聞いてみた!

急速に浸透したパン食の影響で「米あまり」が発生。政府からの要請を受けて「お米由来の商品」に挑戦!

発売までの道のりは容易くなかった「ライスバーガー」のライスプレート
発売までの道のりは容易くなかった「ライスバーガー」のライスプレート

 1972年の開業以来、日本および海外で1701店舗(2022年7月末現在)をチェーン展開する『モスバーガー』。開業の翌年にはオリジナルメニューの「てりやきバーガー」を考案し、世界中のバーガーチェーンに派生したことは知られています。このように、斬新なメニュー考案には長けていた『モスバーガー』ですが、1980年代中盤、あることがきっかけで「ライスバーガー」誕生に至ったそうです。

「1980年代中盤、パン食が急激に普及した影響で、お米が余るような事態が起きました。当時、政府から各食品メーカーや外食チェーンに対し『お米を使ったメニューを積極的に開発してほしい』という要請があり、『弊社でも何か考えてみよう』ということで、『ライスバーガー』の開発が始まりました。

 当初は、『ハンバーガーの具材を、お米由来の何かにする』という発想で試行錯誤しましたが、炭水化物同士なので、なかなかしっくりこなかった。そんな中で、名古屋の天むすにヒントを得て、『パンの代わりにお米を使って何かを挟めば良いのではないか?』と発想を転換させ開発。1987年にライスバーガーの発売に至りました」(モスバーガー・永野さん)

「モスライスバーガーやきにく」がヒットしていたのに、メニューから一時外された理由とは?

1987年に初登場となった「つくねライスバーガー」
1987年に初登場となった「つくねライスバーガー」

 ただし、パンに見立てたお米(ライスプレート)が一体化せず食べる際にバラバラになったり、お米の粒感を損ねてしまったりと、発売に至るまでの道のりは容易ではなかったとも永野さんは語ります。

「お米の食感を残しながらライスプレートを一体化させないといけないわけですが、これが難しかったようです。結果的にライスバーガーの片側の表面に醤油を噴霧し、オーブンで一度焼くことで、決着力が高まることがわかりました。これによってライスプレートが完成し、前述の初代の発売に至りました」(モスバーガー・永野さん)

1990年に登場した「きんぴらライスバーガー」
1990年に登場した「きんぴらライスバーガー」

「つくねライスバーガー」はご飯との相性が抜群の鶏のつくねといんげん、玉ねぎを挟んだもの。その3年後の1990年9月には「きんぴらライスバーガー」が登場し、さらに同年12月には「やきにくライスバーガー」が登場します。

「『ライスバーガー』は発売当初から好評で、特に1990年の『やきにくライスバーガー』を発売した際には、店頭でハンバーガーではなく、焼肉をずっと焼いているスタッフがいたみたいな話もありました(笑)。

 このように、それまでは店頭でバンズ(パン)と、パティといった具を焼くだけだったところに、ライスプレートや焼肉といった具材を調理する必要が出てきたため、『ライスバーガー』が浸透するにつれて店舗オペレーションの組み立て自体を変える必要がありました。『やきにくライスバーガー』がヒットしていたのに、一時メニューから撤退した理由の一つがこういった店舗オペレーションを見直すためでした」(モスバーガー・永野さん)

飛躍する「ライスバーガー」と、モスバーガーならではの意欲メニュー

台湾のモスバーガーでは「ライスバーガー」の支持が日本以上に厚いそうです(写真は台湾のモスバーガーが2021年に発売した『五福櫻花蝦珍珠堡』)
台湾のモスバーガーでは「ライスバーガー」の支持が日本以上に厚いそうです(写真は台湾のモスバーガーが2021年に発売した『五福櫻花蝦珍珠堡』)

『モスバーガー』によって考案された「ライスバーガー」は、他バーガーチェーンにも派生。今日では、コンビニ商材や冷凍食品でも同様の商品を見かけるようになりました。また、台湾ではハンバーガー以上に「ライスバーガー」の支持が高まり、様々なメニューがあるそうです。

「台湾のモスバーガーには7~8種類の『ライスバーガー』があります。台湾ではライスプレートにキヌアを採用したり、バーリーマックスという大麦を使った商品も出ています。健康ニーズの高まりは日本以上です」(モスバーガー・永野さん)

 台湾の「ライスバーガー」もまたさらなる進化を遂げているということですが、このように当初の開発が浸透によってさらに飛躍するのもまた『モスバーガー』ならではのエピソードではないでしょうか。

「ライスバーガー」以外の注目メニューは?

2005年の限定商品だった「ナンタコス」。これまでに何度か復活を果たしています
2005年の限定商品だった「ナンタコス」。これまでに何度か復活を果たしています

 話は少々ズレますが、「ライスバーガー」以外での意欲作についても永野さんに聞いてみました。

「個人的には2005年の限定商品だった『ナンタコス』です。これはヒットしました。カレーに合わせるナンを使ったもので、お客さまからの復活のご要望を多くいただき、これまでに何度か復活させていただきました」

2004年発売の「春待ち大根バーガー(ゆず風味)」は、パティの上に大根を挟んだ意欲作
2004年発売の「春待ち大根バーガー(ゆず風味)」は、パティの上に大根を挟んだ意欲作

 また、2004年に発売した「春待ち大根バーガー(ゆず風味)」も思い出深い商品だと永野さん。「おでんの大根を焼いて、デミグラスソースをかけるという斬新なメニューでしたが、これもヒットしました」(モスバーガー・永野さん)

「ライスバーガー」の新しい味を、今後さらに注力していく

現行販売の「【時間限定】夜モスライスバーガー よくばり焼肉」(左)と「モスライスバーガー焼肉」(右)
現行販売の「【時間限定】夜モスライスバーガー よくばり焼肉」(左)と「モスライスバーガー焼肉」(右)

『モスバーガー』で現行販売されている「ライスバーガー」は、「焼肉」と「海鮮かきあげ(塩だれ)」です。さらに15時以降の時間限定で、焼肉の量を2倍に増やした「よくばり焼肉」、かきあげに金目鯛の天ぷらを加えた「よくばり天 金目鯛とかきあげ(塩だれ)」があります。

「焼肉」は「ライスバーガー」のド定番メニューで、牛バラ肉の濃厚な味わいを和風のソースでいただくもので、ライスプレートとの相性も抜群。クセになる味わいです。

左「モスライスバーガー海鮮かきあげ(塩だれ)」。右「【時間限定】夜モスライスバーガー よくばり天 金目鯛とかきあげ(塩だれ)」
左「モスライスバーガー海鮮かきあげ(塩だれ)」。右「【時間限定】夜モスライスバーガー よくばり天 金目鯛とかきあげ(塩だれ)」

 また、「海鮮かきあげ(塩だれ)」はかきあげに添えられたごま油ベースの塩ダレが香ばしく、これまた「ライスバーガー」ならではの味。さらに「よくばり天 金目鯛とかきあげ(塩だれ)」では、金目鯛とかきあげを一度にいただける贅沢な一品。食べ応えは十分ですが、塩だれによって、意外とさっぱり食べられました。

 永野さんによれば、『モスバーガー』では今後はさらに「ライスバーガー」に注力する予定だそうです。

「小麦高騰のこともありますが、個人的にはモスバーガーが最初に考案した『ライスバーガー』なのに現行では2種類のメニューのみであることが少々もどかしく、さらに注力し様々なメニューを考案していきたいと思っています。今後の展開にも是非ご注目いただければ幸いです」

(撮影・文◎松田義人)

●DATA

モスバーガー

https://www.mos.jp/